ジャパリカフェの一日

おいぬ

ジャパリカフェの一日


「いらっしゃ~い! ようこそジャパリカフェへ~! ゆっくりしてってねぇ」



 青空の下、今日もアルパカ・スリさんの声がカフェの店内に響きます。まるでお日様のようにほんわかとしたその声は、カフェに来てくれるフレンズさんの顔を明るくするようです。


 アルパカさんがたった今声をかけたのは、赤色にオレンジ色がにじんだような色が特徴的なトキさんでした。トキさんは、以前このカフェに訪れてからずっと、毎日顔を出しているのです。



「今日も紅茶をいただこうかしら」


「わかったよぉ~! 今日も、喉の調子をよくする紅茶?」


「ええ、お願いしてもいいかしら?」



 トキさんの澄み切った声は、とてもきれいで美しいものでした。きっと、今日もその綺麗な声で歌うのだろうと思うと、アルパカさんは楽しみで楽しみで、つい紅茶をなみなみと注いでしまいます。それをこぼさないように慎重に運びながら、トキさんに差し出します。



「今日も良い紅茶ね」


「ありがとぉ~」


「んっ……」



 トキさんが紅茶に口を付けている時でした。アルパカさんの耳に、扉に取り付けられた鈴が鳴る音が響きます。どうやら新しいお客のようです。にっこりと、お日様のような笑顔を浮かべながら、そちらへと声をかけます。



「いらっしゃ~い! ようこそジャパリカフェへ~!」


「やぁ、お邪魔するよ。私はタイリクオオカミ。よろしくお願いするよ」


「先生のお供のアミメキリンよ! よろしくお願いするわね!」



 何やら、とても仲良しのフレンズさんの二人のようです。アルパカさんはほっこりとした気持ちを抱きながら、二人を席へと案内します。



「ところで、ここのおススメを聞いておきたいのだけれども」


「紅茶って言う飲み物だよぉ~。博士に教えてもらったんだぁ~」


「じゃあ、それを」


「私も先生と同じものを!」



 タイリクオオカミさんが小さく笑顔を浮かべると、それについてくるように、アミメキリンさんが声を上げます。アルパカさんは、やっぱりほほ笑みながら、紅茶を淹れます。図書館に行って教えてもらった紅茶は、いまやこのじゃぱりカフェの一番の名物。


 前にかばんちゃんが書いてくれたマークのおかげで、空を飛ぶフレンズさんが。ラッキービースト――ボスが見つけてくれたゴンドラで、いろんなフレンズさんが来てくれるようになりました。そのたびにアルパカさんは紅茶やじゃぱりマンを出して、フレンズさんに喜んでもらいます。


 その時が、アルパカさんにとって、一番幸せな時間でした。それもこれも、全部、かばんちゃんとサーバルちゃん、そしてボスのおかげです。


 アルパカさんは、かばんちゃんたちがいつか、もう一度ここに来ることを望んでいました。今こうやって、じゃぱりカフェがフレンズさんの集まる場所となっているのはかばんちゃんたちのおかげだから。


 タイリクオオカミさんとアミメキリンさんに紅茶を出しながら、アルパカさんは二人の話を聞いてみることにしました。こうしてお客の話していることを聞くのも、最近のアルパカさんの楽しみの一つになっていたからです。アルパカさんは、自分が知らないようなことを知っているフレンズさんからお話を聞くことも、トキさんの歌を聞くことと同じくらい好きでした。



「先生、次はどんな作品を?」


「次は、あの二人についての作品を、と思っているんだが」


「あの二人……。誰のことでしょうか?」


「ほら、あのサーバルキャットのフレンズと……ヒトのフレンズのことだよ」



 アルパカさんは目を見開いて、あっと声を挙げました。今、ちょうどあの二人のことを考えていたから、ちょっと驚いたのです。


 タイリクオオカミさんとアミメキリンさんはアルパカさんのほうを向いて、目をぱちくりさせます。その後、少しだけ不思議そうな顔をしてアルパカさんに話を聞かせます。



「キンシコウから話を聞いたんだが、どうやら帰ってきたらしいぞ」


「へぇ~! 今、あの二人とボスは何をしてるのぉ?」


「どうやらさばんなちほーに向かってるらしいわよ」


 

 それを聞いて、アルパカさんは少し驚きました。そして同時に、少しうれしくなりました。


 もしかしたら、ここにも寄ってくれるのではないか、と思ったからです。


 でも、ここに来るまで遠いのは事実。そのことだけが少しだけちくりと、アルパカさんの胸に刺さりました。



「たまには、ここにも来てくれるかなぁ」



 そんなことを、アルパカさんは思います。でも、さばんなちほーに帰るなら、ここには来ることは難しいはずです。


 そのことを少しだけ寂しく思っていた、そんな時でした。


 扉につけられているベルが鳴って、アルパカさんに来客を知らせます。



「いらっしゃ~い! ようこそジャパリカフェへ――――」



 その言葉は途中で止まってしまいました。何故なら、扉の前に、アルパカさんの見覚えのある影が立っていたからです。でもその姿は、ちょっと違います。


 少しだけ背負っているものが膨らんでいました。でも、それ以外には変わっていません。


 となりには、長い耳を持ったフレンズさんがいます。その腕には、ラッキービースト――ボスがいます。


 そして、そのフレンズさんは――かばんちゃんは、にっこりと笑っていいました。



「アルパカさん、紅茶、飲みに来ました」



――fin――

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ジャパリカフェの一日 おいぬ @daqen_admiral

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