事務所

「んっと次の角を右に曲がるんだな」

 地図を見ながら仁はそう言った。初めての土地ということもあって移動に時間がかかる。

「僕も見ようか?君はいちいち確認しているから遅いし」

 実際彼は曲がり角の度に動きを止め、確認をしている。非効率だ。

「そうカリカリするなよ?旅は道ずれ世は情けって言うだろ?」

「そういうなら僕にも地図を見せろよ。対等な関係で行こうじゃないか」

 もしかしたら彼は馬鹿なのかもしれない。心の中でそう思ったが口には出さなかった。

「大丈夫大丈夫!次の曲がり角を左に曲がればすぐだ!もうちょいだぜ」

「そうか、それなら良かった」

 しかしここまでに来る途中で一つ不思議なことがある。

「仁・・・少しいいかな?」

「どうしたよ。緊張で腹が痛くなったのか?」

 茶化すように言ってきた。それを無視して話を続ける。

「妙に曲がり角が多くないか?」

 聞いた瞬間、仁は先ほどまでのふざけた表情から一転、真面目な顔になった。最初からそうしてくれれば良かったものを。

「こういう街なんじゃないのか?偶然路地が固まってるだけかもしれないし。」

「確かに僕もそう考えた。でもおかしくないか?何故大通りから直接いけないところに事務所を開いた。何故ここまで不便なところに開いたんだ?」

「それは…金が無くてそこしか借りれなかったとかじゃねえのか?」

「それはおかしい、お金が無いならそもそも開かなければいいだけだ。」

 仁が息を飲んだ。僕が言いたいことを理解し自分が危険な位置にいると判断したのだろう。

「まるで・・・まるで事務者を『隠しているようだ。だろ?』」

「!?」

 後ろから知らない人の声がした。仁を見ると驚いた表情をしている。

「ありゃま、君たちは何をしに来たのかい?道に迷ったってわけじゃぁなさそうだ?」

 驚いてばかりではいられない。僕は後ろの人間を見た…変な人間だ。

 彼はスーツを着ていた。しかしそれ以外はふざけているとしか言いようのない格好だ。

 まずは眼鏡・・・いやサングラスか。何故かグラス部分が☆の形をしている。

 次にバックだ。少ししか見えなかったがリュックサックを担いでいるようだ。しかも登山用の。

 まだまだある。失礼だが髪型も変わっている。ちょんまげだ、いつの時代の人なんだ。

 そして何故か右手には昭和の父が持って帰ってきそうな寿司?の箱を持っている。

「えっとですね。俺たちはこの事務所に用があってきたのです。」

 すると彼はこう答えた。

「そうかお客さんか!久しぶりのお客さんだね。事務所に行きながら要件を聞くよ」

 そういって彼は事務所に向けて歩き始めた。軽い人だ。

 仁は今までの経緯についてほとんどを話した。村のこと、自分が魔女について調べていること、僕が魔法使いだということを。

 そして巧さん(彼の名前。教えてもらった)は相槌を打つだけで質問とかはしなかった。

「ここまでの経緯はこれだけです。何か質問とかありますか?」

 仁が聞いた。

「うん、そうだね。一つだけ質問させてもらおうか。」

 巧さんが初めて質問した。

「君は魔法について知ってからどうするつもりなんだい?」

 さっきまでの軽い感じとは一転。とても冷たい目で聞いてきた。緊張とは違う感じたことのない感じだ・・・これが殺気とやらか。

「い、いえ。俺は悪用するつもりはありません」

 すると巧さんは先ほどまでの軽い調子で言った。

「なるほど分かった。最初に言っておこう。」

「僕は君を信用していないから」

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ふたりの魔法使い 白餡 @argon1680

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