第43話 なぎと平蔵
「おなぎさん。こんにちは」
黒風は、さやの庵の前で掃除をしていた老女に声をかけた。
「まぁまぁ、黒風様。いらっしゃい」
「様はよしてくださいよ。自分はただの野武士ですから」
「しかし、お屋形様がお連れなさった方に……」
「良いんですよ。まして、俺の方が年下じゃあ無いですか。どうぞ、俺を蒸すことも孫とも思って頂いて」
「ま、こんな大きな孫がいるほどの年じゃあありませんよ」
「これは失礼」
そう言って、二人は笑った。
「おいおい、随分賑やかだなぁ」
そう言って、手ぬぐいで汗を拭きながら出て来たのは、おなぎの夫であり。同じく雑事をこなしている平蔵であった。
二人は政虎より少し早くさやを見つけ、何とか保護しようとしていた者達であった。しかし、さやは野良猫のように人を信じず、彼らに触れられることすら嫌がった。どうにか離れた所に握り飯だの、汁物だのを置き、彼女がそれに口を付けるのを待つしかなかったのだという。
「それが、どうしたものか、政虎様には懐いてねぇ」
おなぎはそう言って複雑そうに笑った。
「さや様なら、今は庭にいらっしゃるよ。今日は政虎様がおいでにならないからなぁ。うまくいくかどうか」
平蔵はため息交じりに言った。
「何とか、頑張ってみるよ。でも、手に負えなかったら頼みます」
「おう。おれ等も大分、さや様の暴れん坊には慣れたからなぁ」
そう言って手を振る二人に背中を押され、黒風は庭へと回った。
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