第42話 幸い
日増しに強くなる日差しに手を翳し、黒風は春日山城内の小径を歩いていた。
さやに会うためだ。
最初に会った時、花の香りを気に入っていたのを思い出し、道々に小さな花を摘む。出来るだけ、優しい香りのするものを選んで。
「まるで、好いた女子に贈るみたいだ」
そう、呟いて、黒風は笑った。そう言えば、こうして穏やかな心持で居られるのは何時ぶりだろうと思う。
今日は、初めて政虎抜きでさやに会うのだ。その緊張は確かにあるのだが、それとは別に心が浮き立つような気持ちがある。ふわふわと、優しくて、楽しい。そういう感情を持つことが、今までにあったかと、自分に問いたいくらいだった。
黒風は摘んだ花を顔に寄せた。ふわりと、数種類の香りが混ざり、不思議な香を醸している。
(こんなこと、あやねにもしてやらなかったのに。早手はしたことがあるのだろうか)
懐かしい顔を思い出し、また、笑みが浮かぶ。
幸せとは、こういうことを言うのだろうかと思った。
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