第11話 温情

 ふたのはの意識が戻ったのは、それから三日の後であった。当初は、自分の状況に戸惑い、一座の仲間、そして、城の者への申し訳なさから出ていくと言ってきかなかった。だが、植親の説得もあり、城へ残ることを承諾した。

「ただただ、申し訳なく……」

そう言って、熱のある体で起き上がり、懸命に礼を取ろうとするのを止めるのに、植親は随分と骨を折った。

「案ずるな。今はただ、ゆるり休まれよ。なに、薬と、滋養のあるものを摂り、よく休めば、ほどなく快癒すると医師も申しておった。そしてまた、あの美しい舞を見せてくれ」

穏やかな笑顔でそう言われると、ふたのはの胸はただただ熱くなった。

 植親は、それからも折につけ、菓子や果物などを届けてくれた。それを見るたび、口にするたび、今までになかった類の力が、身体の内に湧き上がるようであった。ふたのはは、その名前に薄々感づいていたが、敢えて、知らないふりをしていた。それが、決して認めてはいけない心であと思っていた。城の、穏やかな環境において、医師までつけてもらっての療養は、植親のみならず、北の方の温情あってのことだ。その恩をあだで返すようなことは、絶対にあってはならないことだった。

(病で、心細くなっているからだ)

植親の届けてくれた、干菓子を口に運び、歯を立てると、それはほろりと崩れ、甘い香りを鼻に通した。何故かそれが染み入り、つんと、鼻の奥を刺した。

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