第4話 鈍色
「かかれええええええ!」
突然、怒号が響いた。それに続けと織田の奇襲部隊は一斉に声を上げて討って出た。今川軍の総数は二万五千と言っても義元の周りに居る兵は限られる。
「今川義元だ! 討ち取れぇ!」
誰かが叫んだ。敵方の総大将の首、つまりは大手柄目前とあって織田方の士気は爆発的に上がった。逆に今川軍は敵の急襲に対応しきれず、慌てて武器を取り、どうにか防戦するのが精一杯という様相であった。
義元も刀を抜き、応戦するも、分の悪さは歴然であった。
「かくなる上は、一度引いて体勢を立て直そうぞ」
義元は自身の乗って来た輿にちらりと目をやった。それを見て、馬廻り衆の一人が黙って一頭の馬の手綱を取り、義元に渡した。
「お早く」
義元はそれを取り、一瞬、不本意そうな顔をしたが、静かに頷いた。だが、
「逃がさぁん!」
一人の鎧武者が切り込んできた。義元を庇い、馬廻り衆が応戦する。その隙に馬に乗ろうとすると、他の武者が義元を引きずり下ろした。
「今川義元殿!お覚悟!」
武者は義元がよろけた隙に討ち取ろうと槍を構えたが、それより先に義元の扇が、強く武者の手を打った。その弾みで武者は槍を取り落とす。それを掴んで、義元は武者の腹部を貫いた。武者の口から真っ赤な血が迸り、己の槍で貫かれたまま絶命した。
「無粋なものよ」
そう言って、壊れた扇を拾い上げた。その時、義元は己の運命を垣間見たような気がした。
「馬鹿な……」
義元はその考えを振り払おうと、首を振った。だが、何か腑に落ちた。義元は己の手を見つめた。
その時、視界の端に、鈍い光を見た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます