第2話 POP職人
親譲りのコミュ障で子供の時から損ばかりしている。
中学校に居る時分学校の二階から飛び降りて1年間程学校を休んだ事がある。
なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかもしれぬ。
別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、いじめグループの一人が冗談に、いくら死にたいって云っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫や-い。と
救急車で病院に運ばれた後、担任が大きな眼をして二階から飛び降りて教育委員会から苦情が来たらどうするんだと云ったから、この次は生き残らずに死んで見せますと答えた。
以来学校には行っていない。
図書館で本を借りたり、乏しい小遣いからお気に入りのライトノベルやコミックを買い、ウェブにイラストを投稿したり、本の感想を投稿したりしているうちに、ある日、一通のメールが届いた。
新規書店でPOP担当を探している。アルバイトだがやってみないか? と。
自分は引きこもりのオタニートだから、アルバイトなんて外に出ていく仕事はできません、と断った。
数分で返信が来た。
在宅で、画像データだけ送ってくれればいい、POPを書いて欲しい本は向こうから指定するから、その本についての経費は向こう負担でしかも発売前に届くように手配するから、と。
その後幾つかの注意事項――発売前に書評サイトに投稿しないこととか、書評サイトと感想や言葉遣いがかぶらないよう気をつけることとか、そして何より「若い女性が描いたかのように、あざとく可愛らしく書くこと」と。
僕のイラストや書き文字、感想のセンスを見てスカウトしてくれたのだそうだ。
ウェブマネーで前金を払うから、試しに幾つか描いてみてくれ、と言われた。
最近の新刊から3つ、同じ小説で違うパターンのPOPを書いて送ってみた。
翌日、いくつか修正点の指摘とともに、複数のキャラの使い分け(絵柄や字体だ)は何人分くらいできるか? との質問があった。
今度は違うマンガで、5つPOPを送った。
PDFで契約書が送られてきた。
POP1枚につき最初に500円、以後その作品が30冊以上売れた場合、毎月月末締めで冊数分定価の1%をウェブマネーで支払う、と。
コンスタントにある程度の金額を払えるようになったら、銀行振込に移行すること。
普通の仕事として絵師さんにイラストを依頼する相場のほぼ1/10しか出せないから断ってくれてもかまわない、ともテキスト部分には書いてあったが、僕は即決した。
僕には、今まで他に社会とのつながりがなかったから、こうやって声をかけてくれるだけでも嬉しかったのだ。
念のため、両親にそのPDFファイルをプリントアウトしたものを見せた。
母は詐欺ではないかと心配した。
父はネットでその運営会社を調べて、ちゃんとしたところが親会社としてやっているようだからいいんじゃないか、と言った。
その後、念のため税金のこともあるから、現金ではなくても振り込まれた額や使った経費はきちんと記録しておくようにとアドバイスされた。
以来僕は毎月数万円の収入と、発売の数日前に新刊を読める特権を手にした。
時々SNSにリツイートされてくる、「メイド書店のモエちゃんのPOPは今回も神!」みたいな投稿を見ると申し訳ないような気持ちになるし、「モエちゃんとアキたんのキャラかぶってね?」なんていうのを見ると気を引き締めねば、とも思う。
最近は店長から「絵柄のバリエーションを増やして」というメールとともに、別名義でラノベの表紙の仕事も仲介してもらえるようになった。
が、コミュ障の僕は、相変わらず恥ずかしくて直接その店に足を運んだことはない。
to be continued?
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