その三 ■■■について 1
ある世界の話。
この世界には、海の中に人魚の国がありました。
その王には、亡き王妃の娘である6人の人魚の姉妹がいました。
姉妹達は毎年1人ずつ海の上に行っていました。
末の娘の番になった時、海の上で船の上に乗っている男を目にします。
末の姫はその男に一目で恋をしました。
ある日、男に会いたいがために姫が再び海の上に行くと、嵐でした。
その嵐の中、難破した船を見つけた姫は必死に男を探しました。
溺死寸前の男を救い出した姫は近くの陸地に男を寝かせ、介抱しようとしますが、その地の修道院にいた女が彼を見つけて介抱したため、姫は岩陰に隠れていました。
「人魚は人間の前に姿を現してはいけない」
それが決まりだったからです。
それでも。
一度でいいから会いたかった。
話がしたかった。
姫は父や姉達に秘密で、海の魔女の家を訪れました。
そして、声と引き換えに人間になれる薬を貰いました。
海の魔女は言いました。
「もし、彼から愛を貰うことが出来なければ、あなたはたちまち死ぬでしょう」
「人魚と人間は違う。薬によって得た足で歩けば、剣で抉られるような痛みを感じるでしょうね」
「その条件を受け入れる覚悟があるなら、その薬を飲みなさい」
薬を飲み、人間になって倒れている姫に声をかける人物がいました。
見れば、あの時の男ではありませんか!
しかし、今の彼女は薬によって声が出ません。
陸の国の王子だった男と共に城で暮らせることになった姫でしたが、声を失くした彼女では王子を救った出来事を話すことが出来ませんでした。
ある朝、王子に隣国の姫と縁談が持ち上がりました。
その隣国の姫は、なんと修道院にいた女だったのです。
王子の父も「息子の命の恩人なら」とその姫君を王子の妃に迎え入れました。
悲嘆にくれる姫の前に現れたのは、彼女を探していた姉達でした。
姉達は自らの髪と引き換えに魔女から貰った短剣を妹に渡しました。
「この短剣で流した王子の血でお前は人魚に戻れる」と。
夜。
眠る王子に姫は短剣を振りかざそうとしますが、愛した王子を殺すこと、そして彼の幸せを壊すことはしたくありませんでした。
姫は「死」を選び、海に身を投げ、泡へと姿を変えました。
気づいていた。
君が助けてくれたことを。
嵐で船が難破してしまったあの日、一度意識が戻っていた。人ではない君が泣きそうな顔で荒れた海の中、僕を陸まで運ぼうとしてくれたことを覚えている。
「人魚に助けられた」なんて信じてもらえないだろう、そう考えて父上には言わなかった。
君に一目会いたかった。
君にお礼が言いたかった。
君と話がしたかった。
せめて、なにか一言言っていれば何か変わったのだろうか?
…その一言を言うにはなにもかも遅すぎるのだけれど。
マーメイドファタール ー裏ー @tvxv3476
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