第三章  連携と情報量こそが勝利と終焉への近道だと思った

第八話 『増加傾向』

「ゥゥ……ウノシー!」


 ウノシーは全身に弾丸を喰らって、がくがくと膝を震わせていた。今回のウノシーはチェック模様の衣装に身を包んだアイドルのような出で立ちだ。身長は祓魔姫ふつまひめの二人より若干高い程度の、『怪物』と言うより『怪人』と呼ぶ方がしっくり来るサイズだ。茶色い長髪に南国の花を挿している。だが、その面差しは闇に染まっていて、表情をうかがい知ることはできない。戦闘力から察するに、おおかたアイドルと握手できなくて絶望した程度のものだろう。


 日も暮れかけた、コンサートホールの駐車場。

 照明ポールの上で二丁のオートピストルを持ち、下から灯りに照らし出されたピュリメックが、勝ち誇ったように銃口の煙を吹いた。


「さあ、ピュリルーン。今日はあなたがとどめを刺すのよ。キーワードは『ルーン・ピュリファイアー』」


 学校での一件の後、詩乃さんはピュリルーンとして、既成事実のようにピュリメックと共闘し、ウノシーの浄化にいそしんでいる。


 ピュリメックに促され、ピュリルーンがくるりと一回転して浅葱色のミニスカートを広げながら、怪人に左手の人差し指を向ける。

 今日もアンスコをありがとう。眼福眼福。


「最後のお仕置き! ルーンピュリファイアー!」


 ピュリルーンが唱えると、ウノシーの足下に、青い魔法陣が浮かび上がった。それは、円と若干の文字によって成り立っており、ちょっとシンプルさを感じるものだ。


「何も起こらないわよ、ピュリルーン」

「これは……わかったわ☆」


 何かが欠けたような魔法陣を注視していたピュリルーンは、不足した部分だけでそのシステムを理解した。


「これは魔法陣に書き加えることによって、お仕置きのタイプを選ぶことができそうよ☆」

「面白そう。やってみて!」

「わかったわ……ルーンピュリファイアー! タイプ・ベルフェゴール!」


 ピュリルーンが予測した通り、魔法陣に新たな青い光が現れ、より複雑な文様になった。

 魔法陣の外周からは上方に光が舞い上がり、ウノシーはさながら光の檻に閉じこめられているかのような状態になっていた。


「お仕置きタイム! ぴゅりーん☆」


 可憐なピュリルーンの宣言に反応して、魔法陣の中では凄絶なショーが始まった。

 ウノシーの体がどんどん太って……というか膨張していく。衣装のボタンが弾け飛び、ソックスから黒い肉がはみ出し、腕も腸詰めのようになっていく。


「ウ……ウノ……」


 ウノシーが微かに苦悶の声を漏らした。


 次の瞬間――

 魔法陣の光の中で、ウノシーは爆散した。

 うげぇ……

 別なタイプもきっと『ああ』なんだろうと予想しつつも、『ベルなんちゃら』はもう見たくないな。


「排除、完了!」

「お仕置き、おしまい☆」


 二人の勝利宣言が、避難の完了した誰もいない駐車場に響いた。

 巫装ぶそうを解いたひかると詩乃さんが、物陰に隠れた俺と妖精たちの元へ戻ってくる。


「お疲れ。二人とも、結構慣れてきたね」


 スポーツドリンクを手渡すと、二人はおいしそうに飲み始めた。その姿は、運動を終えて水分を補給する、清々しい姿にしか見えない。

 だが二人は命を賭けて闘っていたのだ。

 しかも最近、二人が祓魔姫ふつまひめになる回数が多い気がしてならない。慣れてきたのは、祓魔姫ふつまひめがウノシーと命の遣り取りをすることに、だ。決して良い事ではない。


「あのさ」


 俺は疑問を共有してみることにした。


「ちょっと気になることがあるんだ」

「何、あなた」

「あなたはやめて、詩乃さん。睨むのもやめて、ひかる」

「で、何なのかしら?」


 アネットが話題を戻してくれる。


「最近、ウノシーの発生率が高い気がするんだ」

「うーむ」


 ターヤが腕を組む。


「僕はイマジナリアにいた時、常に闘いの中にいたから、あまり感じないな」

「ひかるが初めて巫装ぶそうしてから、詩乃さんのことがあるまで、しばらく時間が空いていた。だけど最近、週一回以上のペースで闘っていると思わないか?」

「確かに。今のところ勉強に遅れはないけど、これ以上になると困るわね」


 ひかるが俺の疑問に同調する。


「ストレス、失望、挫折……そんなもの今までだってあったはずなのに、ウノシーが発生する頻度だけ増えているのはなぜなんだろう?」

「そうね。守の疑問については、あたしも同じことを考えていた」


 アネットが答えると、俺たちを見やった。


「……それについて、ターヤとちょっと調べてみたいんだけど、少し時間をもらえないかしら」


 妖精たちが調査する時間を確保するために、後日、集合する約束をして、今夜のところは解散する運びとなった。

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