第34話

 その日、ぼくは家具売り場のふかふかのソファにもたれながら、こんなことをぼんやりと考えていたんだ。

 夏休みの良さは、それがいつかは終わることが分かっているからなんだ。終わりのない夏休みはもう休みじゃないんだ。学校へ行って、家で暮らして、ピアノを弾いて、みんなと遊んで、という単調な繰り返しだと思っていた毎日が、実はかけがえのないものだったんだということが僕にはわかってきた。嫌なこと、面倒なことを乗り越えたあとにくる休みが本当の休みなんだ。

 最初、ここは自由にあふれたところだと思っていたけれど、そうじゃなかったんだ。僕らはこのリリィという牢屋でくらす囚人のようなものだ。僕らは何も悪いことなんかしていないのに。もうこんなところはいやだ。帰りたい。帰りたい・・・帰りたい・・・。

 ―ぐらっ

 そこまで考えたときに、また大きな揺れがきた。

 みんなで楽しく遊んでいたころは、しばらく地震はなかったのに、また最近揺れが多くなってきた。

 さすがに揺れる時間が長かったので僕は不安になり、エスカレーターを走って下に降りた。そこでようやく揺れはおさまった。降りた先でサオリにばったり会った。

 「今だいぶ揺れたね。孝くんだいじょうぶだった?」

 「うん。なんとかね。でもさ、カッコなんか降りてきもしないよ。本当にもうどうでも良くなっているみたいだ。あっ、むこうで英ちゃんが手を振っているよ。おーい!だいじょうぶ?」

 通路の果てのほうで英ちゃんは両手で大きくマルを作った。だいじょうぶらしい。

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