第27話

 相変わらず水は出っぱなしだ。試しにハンドルを回してみたけど、最初の時と同じだった。一旦水は止まるんだけれど、すぐにまた戻ってしまい、土管の口いっぱいに水が放出されてしまう。


 「帰りたいけど、ボク、ここも悪くないって思い始めてるよ」

 ガーガーとローラーの音を立てながら、カッコはリリィに戻る途中、そんなことをつぶやいた。たしかに、ここにいれば好き勝手し放題だ。学校でも家でも、ほとんど毎日怒られていたカッコにとっては天国みたいな場所かもしれない。

 僕も実はここがすこしずつ好きになり始めていた。家や団地はなくなったけれど、友達だけで過ごす自由さはなんといっても魅力的だった。そして、サオリがそこに加わって、もっと楽しく感じられるようになったんだ。

もちろん、帰りたくないワケじゃない。お母さんにだって会いたい。でも、どうせ帰ればガミガミ言われる。宿題、ピアノ、学校・・・嫌なものはみんなまとめてなくなった。どんなに遅くまで起きていても、いつまで寝ていても大丈夫だ。ここにいれば毎日が夏休みで、好きなことだけをしてればいい。

 「今日の夜さ、花火やろうよ」

 英ちゃんがいうと、僕はなんで今までそれに気づかなかったんだろうと思った。だから、僕もすかさずそれに答えた。

 「いいね!ロケット花火を連発で飛ばそうよ」

 「わたしはね、線香花火がいちばん好き。あの、ちいさいけれど精一杯咲くタンポポみたいな様子がいいの」

 「へえー、サオリちゃんはそういうのがいいんだ。ボクはドラゴン花火が好きだな」

 「カッコさあ、ドラゴンが好きなら、今日その上をジャンプしてよ」

 英ちゃんがけしかけるように言う。

 「いやだよ、やけどするよ。ケガしたら、ここには病院がないんだから困るよ」

 カッコはなんの気無しにそう言ったけれど、僕はその言葉に少しひっかかった。そうだ。もしケガや病気になったとしたら、僕らはどうすればいいんだろう。

 「ねえ、サオリ、もし誰かが具合が悪くなったらどうしよう」

 僕は心配になって言った。

 「さあ、どうしよう。どうにもできないね。よほどひどくなければ薬屋もあるからなんとかなるよ。でも、きっとその心配はいらないわ」

 「どうして?」

 「どうしても。ここはそういうところなの」

 まただ。僕がわからないことをサオリに聞くとき、たいていはこんな感じになる。サオリは何も説明してくれない。ひょっとしたら、ここの秘密を知っているのかもしれない。でも、決してそれは教えてくれないんだ。

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