第26話

 そのうちに遠くからシャー、シャーという音が聞こえてきた。なんだろうと思って僕は店から出て、広い通路を見渡してみると、スポーツ用品売り場の方からサオリがローラーブレードをはいてやってきた。今日はグレーのワンピースを着ていた。ただ、いつもと違って彼女は真っ赤なヘルメットをかぶり、両ヒジ両ヒザには黒いがっちりとしたプロテクターをつけていた。

 サオリはつっ立って見ている僕の方へ向かってものすごい勢いで走ってきた。ぶつかる!と思って思わず避けようとしたら、サオリは直前でくるりとまわって華麗にストップした。

 「こないだのお返しよ」

 サオリはにっこり笑って僕のまわりをゆっくりとめぐった。昨日の飛び込みの一件以来、サオリは僕らと少しずつ打ちとけるようになっていた。

 「上手だねー。僕にもできるかな」

 「すぐできるよ。教えてあげる。みんなでこれ履いて出かけようね」

 そこで僕らはまず、モールの通路でヘルメットとプロテクターをつけて練習を始めた。僕と同じようにカッコも英ちゃんもへっぴり腰だ。

 「わわわわ!カッコ!オレの腕つかむなよ!クショババ!」

 「だ、だって、ボクこんなの無理だよ・・・」

 カッコはまるで生まれたての馬の赤ちゃんのようによろよろと歩き出す。

「背筋をピンとのばして!なるべく前の方を見るのよー!」

 サオリが色々とアドバイスをしてくれる。そのおかげで最初は何度も転んだけれど、しばらくたつと少しずつ慣れてきて僕らはなんとか通路を走り回れるようになった。

 「これ、楽しいねえ!」

 英ちゃんが床に倒したマネキンをジャンプしながら叫ぶ。もうかなり上達している。英ちゃんは小さいけれど僕ら3人の中で、一番運動神経がいいんだ。僕らはいろんな障害物をあっちこっちから持ってきて、通路に置いてはよける練習をした。

 お昼を食べてから僕らはギラギラと照りつける太陽の下、リリィの駐車場でローラーブレードを履いて走り回った。アスファルトの上はさすがに通路のようにスルスルとはいかないけれど、外で走るのはまた別の楽しさがあった。汗がこめかみを伝わってしたたるのもなんだか気持ちがイイ。そうやってある程度慣れてきたから、今度はリリィの外へ出ることになった。僕らはまずは調整池へと向かった。

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