第25話

 僕はうすぐらい灰色の道を歩いていた。雰囲気がなんとなくあの土管に似ている。しばらく歩くと、向こう側にぼうっと明るい光が見えた。着いてみると、そこは僕の家のリビングルームだった。なんだか久しぶりな気がする。外は夜だった。キッチンで背中を向けて何か洗い物をしている女の人がいた。

 ――おかあ・・・さん?

 そう呼んでみたけれど、返事はない。僕はそばに行こうとするんだけど、いくら歩いても、いっこうにその人のところにはたどり着くことができない。僕はだんだんあせって、走り出した。でも、だめなんだ。どんなにしても、入口からキッチンの距離が縮まらない。そのうちに部屋全体がガタガタと揺れだした。僕はついに叫んだ。

 「おかあさん!」

 そこで目が覚めた。なんだ、夢だったのか、と思ったけれど、まだ揺れている。僕は地震で目が覚めたのだ。久しぶりに大きい揺れだ。僕は思わず無印良品のテーブルの下にもぐりこんだ。いつのまにかこの店が僕らの生活の場になっていた。英ちゃんとカッコも起きだして、すぐに僕のところへやってきた。サオリは大丈夫だろうか。そのうちに揺れは収まったので僕らはのそのそとテーブルの下からはいだした。

 昨日のプールのおかげでなんとなく体がだるい。お腹もまだ少しひりひりする。僕は今何時か知りたかった。けれど、ここでは時間と日にちを知ることはできないんだ、ということを思い出した。

 最初の日、気づいたら英ちゃんのデジタル時計は買ったばかりなのに、何も表示されなくなっていた。店の時計は全部時間が違っていて、正確に何時かわからなかった。カレンダーはどこを探しても売っていなかった。

 ぼくらは今日が何月何日の何時か、まったく知らないままなんだ。

 「昨日は地震、なかったのにね」

 カッコが眠そうな顔で言った。たしかに、昨日はぜんぜん揺れなかった。遊びに夢中になっていたから気づかなかったのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る