第24話

 「飛び込みは練習がいるのよ。見てて」

 サオリはすっくと立ち上がってすたすたと飛び込み台へ向かった。

 さっそうと飛び込み台に立つサオリはとってもカッコよかった。そしてあっと思う間もなくサオリは見事に頭から飛び込んだ。完璧なフォームだった。そしてサオリはそのままクロールで25メートルを泳ぎ切った。速い。僕らと競争したら、楽勝で一番だろう。全身をしずくで光らせてサオリは戻ってきた。生き生きとした顔をしていた。

 「ああ、楽しかった」

 「泳ぎも飛び込みも上手だね」

 僕がそう言うと

「うん、どうしてだかわたし、泳ぎが得意なの。なぜかしらね」

 とすこしさびしそうな顔をした。

 その後、サオリに飛び込み方を教わった僕らは、何度かお腹を打ったものの、夕方ころにはみんなが頭から飛び込めるようになっていた。今日は本当に楽しかった。いつまでもこれが続けばいいと思ったりもした。

 しかしサオリの一言で、ここがどういう場所かを思い出したんだ。

 「そろそろ戻らないと“さまよい”が出るよ」

 ぼくらはそれを聞いて、そそくさと帰りじたくを始めた。ボートなんか置きっぱなしでいい。どうせ誰もとらないし、なくなったらまたリリィから持ってくればいい。その日、僕らはさすがに疲れてすぐに眠ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る