第23話
プールに着いて、いくつものビニールボートに空気を入れているときはものすごくワクワクした。空気入れをみんなシュコシュコとえらい勢いで踏んだ。するといつの間にか誰が一番早くふくらませられるか?という競争になったんだ。
「うおーっ!クショババ!クショババ!」
結局、狂ったように叫びながら空気を入れた英ちゃんがクショババパワーで勝利した。
真っ赤なワンピースの水着を着たサオリはパラソルを立ててその下にビニールボートを置いて座った。そしてそのままワイワイと準備をする僕らの様子を見ていた。
色々な大きさのボールや浮き輪、ボートをいくつもプールに投げ入れると、かなりにぎやかになった。水に足を入れると最初は冷たく感じたけれど、じきに慣れた。とても気持ちがいい。
「サオリは入らないの?」
僕はプールの中から聞いた。
「そのうちね。今はまだここで見てる」
それを聞いた僕はなんだかつまらなくて、カッコが浮き輪で浮いている後ろから潜水で近づいた。そしてそのままカッコの足を引っ張ってびっくりさせ、モヤモヤした気分をまぎらした。
「ねえ、飛び込みやってみない?」
プールサイドで休んでいた英ちゃんが水を掛け合っていた僕とカッコに向かって突然言いだした。学校のプールは飛び込み禁止なのだ。でも今日はいくらでもしたい放題だった。
「いいね!やろうやろう!」
僕とカッコは一旦プールから上がって、英ちゃんの後に続き飛び込み台に向かった。僕らの足跡が、プールサイドに模様をつけていき、陽にあぶられてはすぐに消えていく。
飛び込み台といっても、プールのはしっこにある高さ30センチくらいのコンクリの台だ。ただ、僕らは誰も正しい飛び込みのやり方を知らなかった。だから台に乗ったとき、僕らの体は思ったよりも水面より高い位置にあって、少しドキドキした。それでも僕は勇気を出して、やたらと手足を真っ直ぐにして飛び込んでみた。
パアン!
何かをひっぱたくような音がした。でもなんとなく飛び込めたかな。水泳の選手になったような気がして嬉しかった僕は、すぐにプールサイドに上がって再び飛び込み台の上に乗って飛んだ。
パアン!
またあの音だ。なんだろう。僕がプールから上がる時にちょうどカッコが飛び込んでいたけど、やっぱりパアン!ていう音が聞こえた。
しばらくそうやって何回か飛び込んだあと、僕と英ちゃんはジュースを飲むためにサオリのいるパラソルのところへ行った。
「ねえ、キミたちお腹が真っ赤だよ!」
サオリが驚いた様子で言った。
僕と英ちゃんはお互いのお腹を見た。なるほど、なぜかお腹が真っ赤になっていた。たしかに、なーんかさっきっからお腹がヒリヒリしていたんだよな。このせいだったのか。
僕らの赤いお腹を見て、サオリはクスクス笑っている。サオリの笑顔を見るのは初めてだった。
「ねえ、2人とも飛び込みのやり方知らないんでしょ。だから腹打ちしちゃったんだ。ムチャするね。頭から飛び込まなきゃだめだよ」
そう言われてなるほど、と思った。僕らはカエルみたいに飛び込んでいただけなんだもの、そりゃお腹も赤くなるか。
「あーなんかお腹がいたいんだよー」
そう言いながら戻ってきたカッコのお腹も真っ赤だった。
僕とサオリと英ちゃんはそれを見てどっと笑った。カッコはなんで笑われているのかわからないから、ちょっとムスっとした顔になった。
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