第17話

 信じられない光景だった。

 夜の広い駐車場に、ぼうっとかすむ白い影のようなものがうごめいていたんだ。それも、何百、いや何千だろうか。さらによおく目をこらしてみると、それは人間のような形をしていた。頭と手足がはっきりと区別できる。ただ、どの影も背が低く、子供のようにも見える。ただ立っているヤツもいれば、ウロウロとするヤツもいた。でも、何か目的があるというわけではないようだ。本当にただ、いる。そんな感じを僕は受けた。

「おどろいたでしょう」

 とつぜんサオリの声が後ろからして、僕らはビクッとなった。

「あれは・・・何?」

 英ちゃんが震える声で聞いた。

「わからない。夜になると出てくるの。でも特に、なにか危害を加えてくるわけじゃないから安心して。薄気味悪いけどね。わたしはアレを“さまよい”ってよんでるの」

「さまよい・・・」

 僕はつぶやいた。たしかに、あいつらはさまよっているようにみえる。

「ドアが閉まっていれば入ってこないの。だから、カギをかけているの。まあ、アレはドアを開けたりはしないんだけど、もしあんなのがそばにいたら嫌でしょ」

 サオリはなぜか悲しそうな目で“さまよい”をながめている。

 「あれって・・・幽霊?」

 カッコは今にも泣きそうだ。

 「どうかしらね。そうかもしれないね」

 サオリは平然と言った。

 「ヤだよ・・・ボク、もうこんなところ・・・帰りたいよ・・・」

 カッコはすわりこんでシクシク泣き出した。

 僕だって泣きたかった。なんでこんなところでこんな目にあっているんだろう。お母さんの言うとおり、ピアノの練習をしていれば、土管をくぐることもなかったかもしれない。これが夢なら早く覚めてほしい。英ちゃんも僕と同じ思いだろう。鉄の柵に頭をくっつけてなにかブツブツ言っている。

  ――ぐらり。

 また、揺れた。かなり大きい。

 僕は反射的に、となりにいたサオリの手をにぎり、頭を抱えているカッコのそばに座らせた。

 「英ちゃん!こっちに来て!」

 そう言うと同時に英ちゃんは飛んできた。男の子3人でサオリを守るように取り囲んだ。さいわい、揺れはすぐに収まった。

 「あ、ありがとう・・・」

 サオリはすこし驚いた顔をして僕に言った。僕はなんだか照れくさくなって、すこしうなずくだけで返事はせずに駐車場の様子をみた。“さまよい”は相変わらずそこに、いた。

 「もう中に入りましょ。中は涼しいし、寝る場所はいくらでもあるから」

 サオリの言うとおりに僕らはすることにして、屋上の階段出口へ向かった。階段を下りる前に、ちらりと神社をみた。神様がまつられているはずなのに、僕はなぜだか不吉な予感がした。

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