第16話

「うん、そのことね。じゃ、みんなついてきて」

 サオリはイスから立ち上がり、僕らを引き連れて2階の店員用出入口へと入った。ここも最初に入ったところの廊下とおなじように、殺風景な白い廊下だった。はなやかな店の部分とは似ても似つかない。

「店の裏側ってこんなに地味なんだ」

 英ちゃんはぽつりとつぶやいた。

「ここを派手にしてもね。そこのドアのむこうの非常階段をのぼるの」

 サオリがドアを開けるとせまい階段があった。蛍光灯がついてはいるが、薄暗くてどことなく不気味だ。

「この上が屋上」

 僕らはサオリについて階段を上った。サオリは階段を上りきるとその先にあるドアを開けた。

 急に生ぬるい空気が押し寄せた。夏の夜のにおいだ。

「こっち」

 何もないだだっ広いコンクリの床が広がる屋上を、その端に向かって僕らは歩いた。ただ、この何もない空間にひとつだけ目を引くものがあった。それはこの屋上の出口からすぐ横に立っている高さ2メートルくらいの小さな神社だった。やしろの前にはきちんと赤い鳥居が立っている。

「あれは?」

 僕は立ち止まってサオリに聞いてみた。

 サオリは、ほんの一瞬戸惑ったような表情を見せたけど、またすぐに真顔になって「見ての通り、神社ね。よく、ビルの上とかには神社があるのよ。知らない?」と答えた。

「知らない。初めて見た。なんかヘンだね、こんなところに神社があるなんて」

「ヘンなんて言わないほうがいいよ」

 サオリは少しムスっとした様子になった。なんで怒ってんの?と僕が聞こうとしたとき、先に屋上の端っこにたどり着いた英ちゃんとカッコが大声を上げた。

「うぇっ!なんだあれ!」

「う、うそだろ!」

 なんでそんなに大騒ぎしているんだろう。僕は気になってサオリを置いて二人のところへ駆けつけた。カッコと英ちゃんは、屋上の柵の鉄格子をつかんでぼうぜんと駐車場をながめている。そしてそれを見た僕もほとんど二人と同じ叫び声をあげた。

「ああ・・・そんな・・何なんだ!」

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