第13話

「僕は孝之。3時間くらい前に、土管を通ったら、ここに着いた」

 聞きたいことが山ほどあったけれど、僕は立って名乗った。

 「オレは英太」

 「ボク、克彦」

 「ふうん、そうなんだ。わたしはちょっと前からここにいるの。だからキミたちよりはここがどういうところだか知ってるよ。きっといろいろわたしに聞きたいでしょ。でも、その前に、ここから移動したほうがいいよ。もうすぐ夜になるから」

 「夜になると、どうなるの?」

 カッコがのろのろと立ち上がりながら聞いた。

 「そのうちわかるわ。さ、わたしについてきて」

 僕らは他にどうすることも思いつかないから、素直にサオリにしたがった。

 「どこへ行くの」

 亀裂の入った道路を4人で歩き始めると、英ちゃんは自分の背より少し大きいサオリに向かって聞いた。

 「リリィよ。あそこは特別なの。行けばわかるよ」

 「行けばわかるって・・・ねえ、それより、なんでここには人がいないの?ここは何なの?その・・・サオリはいつ、どこから来たの?」

 矢継ぎ早に質問する僕を横目でチラリと見てからサオリは言った。

 「その答えは、わたしだって知りたいわ。とにかく、ここに人はいないの。わたしがいつからいるのか、どこから来たのかは、実はよく覚えていないんだ。今はこれ以上言うことはないわ」

 そっけない答えだった。なんで自分がいた場所がわからないんだろう。記憶喪失にでもなっているのだろうか。でも、サオリはもう質問を受けつけないような様子で僕らの先頭を歩いているんだ。だから僕らも自然と黙ってあとをついて行くしかなかった。

 リリィの広い駐車場にたどりつくと、サオリは正面の入口には向かわずに、モールの裏側へと向かって歩いていく。

 「ねえ、なんでこっちに来るの?前から入らないの?」

 カッコが聞いた。

 「正面入口にはカギがかけてあるの。“アレ”が入ってきたら嫌だから」 

 「アレって何?」

 僕は聞き返した。サオリはなんだかわからないことばかり言う。

 「すぐにわかるよ。ほら、ここから入ろう」

 そう言ってサオリは僕らを裏口の小さなドアへ招き入れた。サオリはドアの鍵をしめると、「ついてきて」と歩き始めた。

 こういう大きな店の裏側を見るのは初めてだ。蛍光灯に照らされた長く、白い廊下が向こう側、正面に見えるドアまで一直線に続いている。僕らの足音だけがカツカツとひびく。サオリが廊下のつきあたりのドアを開けると、広く、薄暗い場所へ出た。鉄の棚が図書館みたいにずらりと並んでいて、そこにはいろいろな商品がのっていた。どうやら、ここは店の裏側の倉庫のようだ。サオリはそこを突っ切って、こんどは観音開きになっている重い鉄の防火扉を押した。するとそこは僕らもよく知っている、一階エスカレーターそばのイベント広場に通じていた。

 「へえ、ここに出るんだ」

 いつもとは違うルートを通ってきたので、僕はなにか不思議な気持ちになった。ここも知っているはずなのに、なにかよそよそしい雰囲気がした。いつもは人がたくさんいて、にぎやかに音楽やアナウンスがひっきりなしに流れているけれど、今はそれがまったくないんだ。エスカレーターは止まっていた。学校で、何かの用事で遅くなった時に、誰もいない校舎でこんな感じを味わったことを思い出す。

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