サオリ
第11話
「とてもじゃないけど、あの中を戻ることなんてできないよ・・・」
英ちゃんは座り込んでうなだれた。
水はそのまま調整池にたまることはなく、土管の真下の部分にある金網でおおわれた大きな排水口に流れ込んでいた。
僕もカッコも、土管から勢いよく流れる水をただ見ているしかなかった。
その時、また地面が揺れだした。
「わああ!」
「いやだよ!もう!」
僕らは3人で固まって道路にうずくまった。さいわい、今度はすぐに地震は収まった。もう揺れないのを確認して僕らは立ち上がり、行ってもムダだと思いつつも土管の近くへノロノロと歩き始めた。実際はもう揺れていないのに、まだゆらゆらと地面がうねっている感じがしてしようがない。
近づくにつれ、僕はあることに気づいた。土管の上の部分は柵で囲われている。その囲いの中には大きなハンドルのようなものがあった。
「ねえ、あれ・・・あの土管の上にあるやつ、水を止めるハンドルじゃないのかな」
僕は2人に言った。
「あ!そうかも。地震のせいでハンドルがゆるんで水が出たんじゃないか?行ってみようよ」
英ちゃんは走り出した。僕らも続いた。そこに近づくにしたがって水の音は大きさを増した。近くで見る土管の穴からは滝のように水が吹き出している。
柵は1メートルくらいしかないのですぐに乗り越えられた。自動車のと同じくらいの大きさの赤い鉄製のハンドルが高さ五十センチ、直径十センチくらいの太い棒の先に、水平にくっついていた。
試しに僕がハンドルを回してみた。
「うーん!」
力いっぱい回すとかなり重いけれども、何とか動いた。でも、僕だけでは無理だ。
「3人でいっぺんに回してみよう」
僕がそう言うと2人もハンドルをつかんだ。
「せーの!」
ハンドルはゆっくりと動き始めた。
「やった!回った!」
僕らは声を上げた。回すにつれて水の音が小さくなる。
「2人とも、そのままちょっと持ってて」
土管の様子を見ようと僕は手を放した。下をのぞきこむと、水の量はかなり減っている。これなら入れそうだ。
「ねえ、中に入れそうだよ!帰れるよ!」
「ホントに?!」
そう言って英ちゃんもハンドルの手を放した。
「ちょ、ちょっと、英ちゃん、僕ひとりじゃ無理だよ!」
カッコはハンドルを必死に押さえて叫んだ。ハンドルには元に戻ろうとする力が働いているのだ。
「カッコ、ちょっと我慢してて。オレ下に降りて見てくるよ。」
英ちゃんはそう言ってすばしっこくかべに打ち込まれた金具の階段を下り始めた。穴の横から英ちゃんは土管の奥を見た。
「おー!水止まってるよ!いけそうだよ!」
上から英ちゃんの様子を見ていた僕は、その言葉を聞いてバンザイをした。
「カッコ、帰れるよ!」
そう僕が振り向いて言ったとたん、カッコは「もうムリ」とハンドルの手を離した。するとハンドルはクルクルと戻り始めた。
「ああ・・・」
僕は目の前が真っ暗になった気がした。
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