第10話

 しばらく僕らはぼうぜんとして、何も言えなかった。あまりのことに頭が真っ白になっていた。カッコがべそをかきながらとぼとぼとこっちにやってくる。

 「い、家にだれもいなかったんだ・・・テレビも電話もだめだった・・・。」

 僕が経験したことを、そのままカッコは話しだした。

 「オレんちもだよ。もうその家もないけど・・・」

 英ちゃんも涙目になっている。

 それにしても、相変わらず不思議だった。あれだけの地震があったのに、僕らしか外に出てこなかったというのはどういうことだろう。いくらなんでも、誰かがいるはずだ。それなのに、人の気配がない。

 「ねえ・・・ここ、本当に僕らの団地なのかな・・・」

 僕は思ったことをそのまま口にした。

 「どういうこと?」

 ようやくしゃくりあげるのをやめたカッコが言った。

 「うん。だって、土管から出てきてから、急におかしくなったろ。車も通ってないし、なによりも誰ひとりいないなんて、変だよね」

 僕がそう言うと英ちゃんも考えは同じようだ。

 「つうか、絶対に変だ。夢みたいだもん。でも、ほっぺをつねったって痛いままだし、実際にオレの家はつぶれてる・・・」

 英ちゃんの言葉を聞いているうちに、僕はハッと思った。

 「そうだ!またあの土管から戻れば、ひょっとしたら僕らの本当の団地に帰れるんじゃないのかな!」

 二人は僕を見た。その表情には少し明るさが戻っている。

 「よし、戻ろうよ。懐中電灯はないけど・・・とにかく壁を伝ってでも、逆に行けばいいんじゃない!」

 英ちゃんも僕の意見に賛成のようだ。カッコもうなずいた。僕らはクタクタだったけど、小走りで坂を上り始めた。団地の半分以上の家はたおれていた。時おりミシミシっと音を立ててくずれる家もあった。でも、やっぱり人の姿は見当たらない。

 はあはあ言いながら坂を登りきると、ショッピングモールのリリィが見えた。あれほどの地震にもかかわらず、建物はしっかりと立っていた。広い駐車場に車はあるけど、誰も乗っていない。中の様子を見たい気もした。しかし今は建物に入る気はしない。それよりも、土管を通って帰らなきゃ。

 調整池はリリィの通りを右に曲がって下った先にある。

 早く帰るんだ。僕らは全速力でそこへと向かった。そしてようやく調整池の端っこのところまで僕らはたどり着いた。そこから百メートルくらい向こうに土管の出口が見えた。しかしその光景を目にした時、絶望が僕らをつつんだ。

 調整池じたいは無傷だった。けれどもあの土管の出口からは、ごうごうとものすごい勢いで水が流れ出していたんだ。

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