第4話

 僕と英ちゃんは田んぼのあぜ道をすべらないように歩きながら、田んぼの北側を流れる小川の方へ向かった。その小川は切り立った崖の下を流れていた。崖にはたくさんの木が茂っていて、昼間でも暗くてひんやりするんだ。

 しかしその日は何か様子が変だった。川に近づくといつもは少し涼しい感じがするのに、相変わらずむし暑いんだ。そして川辺についた二人は同時に

「えーっ!」

と声をあげた。

 それというのも、いつもならゆったりと水が流れているはずのその川が、すっかり干上がっていたんだ。つるつるとすべりやすいその川底には、ところどころに水たまりがあるだけだった。

 「孝くん、こんなのって初めてだよね?」

 英ちゃんが不安そうに僕に聞いた。

 「うん・・・見たことないよね。どうしたんだろう」

 「あっ、孝くん、あれ見てよ。水が止まってるよ!」

 英ちゃんの指差している方を僕は見た。

 この小川の水は、崖とコンクリートブロックがぶつかる境目の角の、地上1メートルくらいのところにある大きな土管からいつもは流れている。それも、かなりの勢いでどどどと流れている。前に僕らは一度その中を探検しようとしたんだけれど、勢いが激しくてあきらめたことがあった。それがどうしたことか、今は一滴の水も流れていないんだ。

 「英ちゃん、見に行こうよ。」

 「うん、行こう!」

 水のない川をすべらないように注意深く歩きながら、田んぼの一番奥にある土管のもとへ、ぼくらはたどりついた。

 土管は黒い大きな口を開けてひっそりと静まり返っていた。大きさは直径1メートル50センチくらいだろうか。

 「いつもは水の音がざあざあ言ってるのにさ、なんか静かだね」

 僕は土管の奥の暗やみを見て言った。なんだか今にも吸い込まれそうだ。

 「おーい、誰か住んでるのォー」

 英ちゃんが変な節をつけて土管の奥に向かって叫んだ。もちろん、返事はない。

 「おーい」

 「おーい」

 僕と英ちゃんはしばらく口々に叫んでいた。そのうちに英ちゃんが「ね、中に入ってみようよ」と言い出した。

 僕もその意見に賛成だった。でも、こう見るとあまりに暗くて少し怖い気もするので「いいけど、だいぶ暗くて奥まで行けそうだから、懐中電灯を持っていこうよ」

 と提案した。

 「おー、いい考え。じゃ、オレいったん家に帰って持ってこよう」

 名案を思いついた僕らは英ちゃんちに一旦戻り、ガレージに置いてあった懐中電灯を手にしてまた坂道を下り始めた。すると突然僕らは「英ちゃん、孝くん!どこ行くの?」と後ろから呼び止められた。振り返るとカッコがそこに立っていた。カッコというのはあだ名で、本名は「克彦」だ。

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