第5話

 英ちゃんと僕は顔を見合わせた。僕らにとってカッコは同級生の友達としてはワンランク下の位置だった。というのも、カッコって体は大きいが、泣き虫で、少し気の弱いところがあって、悪く言えばうすのろだった。しかもときどきウソをつく。

 四年生の時に、こんなことがあった。


 僕がカッコの家に遊びに行くと、たまたまその日はカッコのお父さんが家にいて、ちょうどカッコにおつかいを言いつけているところだった。

 カッコのお父さんは外で仕事をする人で、日焼けして体も大きく、少々荒っぽい感じだった。僕はカッコが彼のお父さんに勢いよく頭を叩かれて泣いているところを何度か見たこともあった。

 「克彦、いいか、今日は母ちゃんが留守だから夕飯買ってくるんだぞ。この財布に三千円入っているから、何か好きなメシ買ってこい。それとオレのツマミの冷凍の枝豆忘れんなよ。おつりはこづかいにしろ。孝之くんにジュースでも買ってやれ」

 僕はカッコのお父さんにお礼を言ってカッコと二人で坂を登りきった先にある、ショッピングモール「リリィ」へと向かった。

 リリィは二階建ての中型のモールだけど、たいていのものはここで売っている。僕らは外での遊びに飽きると、ここへきてよくうろついた。みんなお金をそんなに持っていないから、何かを買うことはあまりないけれど、はなやかなモールはいつ来ても楽しい気分にさせてくれた。

 カッコはリリィにつくとすぐに、正面入口を入ったところにずらっと並んでいるガシャポンコーナーへと走っていった。僕があとからついていくと、彼はすでに千円を両替機でくずしていた。

 「ねえ、カッコ、おかず買わなくていいの?」

 僕は心配してたずねた。

 「大丈夫だよ。先にこれやろうよ。ぼく、前からこれ欲しかったんだ」

 そう言いながらカッコは「どんなポーズも自由自在!クネクネ人形」と書かれたガシャポンに三百円を早くも入れ始めた。なぜだかカッコはこの針金をホネにしたヘンな人形にとりつかれていた。

 「ああ、だめだ!これじゃないよ!」

 すでに四回目を回そうとしながらカッコはイライラしながら文句を言った。どうやらカッコは緑色のカッパのクネクネ人形が欲しいらしい。しかし出てくるのはガイコツだったり、カウボーイだったり、どうしても望みの品ではないものばかりだ。僕は自分のお金じゃないから面白がって一緒に見ているだけだった。じきに僕は見ているのも飽きて、ガイコツの腕や足をありえない方向へねじ曲げて遊んでいると、カッコが叫んだ。

 「やったー!出た!」

 そう言ってカッパの人形を手にした時には財布の中身は三百円しか残っていなかった。そしてカッコはその時初めて自分が何をしたのかということに気付いたようだった。山と積まれたクネクネ人形を前に、彼はぼうぜんとしていた。

 冷凍枝豆をひと袋だけかろうじて買い、大量のクネクネ人形を持ってかえったカッコは家に着くなり頭をお父さんに叩かれ大泣きをした。

 「なにやってんだお前は!このバカタレ!」

 僕はなんとかその場を去ろうとしたが、きっかけがつかめずにぐずぐずしていた。すると半べそのカッコの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 「違うよ、ヒック、だって、孝くんが、急に僕からお財布をとって、ヒック、ちょっと貸してって言って・・・全部勝手に使っちゃったんだよお・・・」

 僕は今までこんなに驚いたことはなかった。まさに開いた口がふさがらなかった。こいつはトンデモナイうそつきだ。

 「な、何言ってんだよ!そんなことしてないだろ!全部自分でやったくせに!」

 僕も必死になって叫んだ。さすがにカッコのお父さんもそのウソにはだまされなかった。

 「オメエはなんてウソをつくんだ!」

 またしてもゲンコツがカッコの頭に落ちた。

 そのあとのことは、もうあんまりよく覚えていないけれど、とにかくカッコの裏切りを、僕はいつまでも忘れないだろう。

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