第3話
三ヶ月前、トラクターで耕され、土がもりもりとうねっている田んぼの中を、僕たちは近所の友達五人で歩き回っていたんだ。
長ぐつをはいて、粘土の波の上をよろよろしながら歩くと、まるで見知らぬ島を歩いているような気分だった。でも、ときどき足がぬかるみにはまって動けなくなることがあるんだ。そんなときは少しあせるんだけれど、仲間の誰かが必ず助けてくれるから大丈夫。
そうやってしばらく泥と水たまりの広場をウロウロしていたら、突然誰かが「うわっ!ヘビだ!」と大声を出した。
振り返ってみると、僕から五メートルくらい後ろのところを、ベージュ色の体に、すうっと黒いタテ線を引いたようなヘビが身をくねらせていた。長さは80センチくらいだろうか。多分シマヘビだろう、と僕は思ったけれど、その時はもうびっくりして
「うわ、かまれる!」
と思ったんだ。だから僕はもう必死になって足元から泥をつかんでヘビに投げつけた。そうしたら、見事にそれがヘビの頭に当たって、ソイツの動きを止めた。それを見ていた友達たちは、やっぱり僕と同じように足元から泥をすくってヘビに向かって投げたんだ。
「うおおらー!」
「わあぎゃあ」
「クショババ!クショババ!」
僕らはみんな意味不明の叫び声を上げながら、次から次へと夢中になって泥の弾丸を投げつけた。それはもう、えらい勢いだった。
みるみるうちにヘビは四方八方から投げられた泥のカタマリに飲まれてしまった。しまいには、山盛りの泥からはシッポが少しのぞいていただけだった。
ヘビは気絶したのか、ピクリとも動かない。みんなでおそるおそる近づいてみると、やはりシマヘビのようだ。シマヘビなら、毒はない。そこで急に大胆になった僕たちは泥を取りのけて、ヘビの様子を見た。まだぐったりしていたが、死んではいないようだった。
「ほら、コイツ、おとなしいじゃん。ひょっとしたら、持てるんじゃない?」
英ちゃんがそう言うと、村田のみっちゃんが勇気を出してヘビをつかんだ。すると思いのほかおとなしくするすると腕に巻き付いた。ヘビはどこを見ているのかわからないが、おびえた様子はなく、チロチロと舌を小刻みに出したり入れたりしている。
「わー、ねえ、これだいぶ人に慣れたんじゃない?みんなで飼おうよ」
みっちゃんはヘビの頭をなでながらそう言った。
「おー飼おう、飼おう!」
みんなは口々に叫び、さんざんヘビをいじくりまわした後で、誰の家で飼うのかという相談になった。僕のウチはもちろんダメだった。お母さんがえらい勢いで首を振り、そのうえ、そんなものはスグに捨ててきなさい!と叫んだからだ。
結局、生き物には理解のある英ちゃんの家で飼うことになった。
けれども、石油用の赤いポリタンクに入れられ、ワーちゃんと名付けられたそのヘビは、どうやってだかその夜のうちに逃げてしまった。僕らは次の日ずうっと町内くまなくワーちゃんを探したけれど、どこにもその姿はなかった。
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