第2話

 網を持った英ちゃんの右腕には自慢の腕時計が光っている。最新型のデジタル時計だ。最近、誕生日のプレゼントに買ってもらったんだそうだ。

 「孝くん、きのうはさ、オレ一人で行ったけどマッカチンを二匹も捕まえたんだよ!見る?」

 「見る見る!」

 マッカチンとはその名のとおり、真っ赤で、大きくて立派なアメリカザリガニのことだ。僕は英ちゃんの後について屋根付きのガレージに行った。

 大きめの、少し緑色に薄汚れた水槽の中には、確かに二匹のマッカチンがいた。英ちゃんが大きい方のヤツの背中をつかむと、そいつはとたんに重たそうなハサミを振り上げてバンザイをしているような格好になった。

 「ね、すごいだろ。きっとまだ何匹もいると思うよ。たださ、こいつ田んぼじゃなくて、横の小川にいたんだよ。だからオレ滑ってころんでズボンびしょびしょにしちゃったよ」

 おにぎりみたいな顔をにっとゆるませて英ちゃんは笑った。

 「いーなあー。かっこいいなあ、僕もマッカチン欲しいよ。まだ一匹もとったことないんだよなあ」

 僕の言葉に英ちゃんは満足そうにうなずいた。

 「大丈夫だよ、孝くん。今日は絶対取れるよ。さ、行こ」

 「うん」

 僕と英ちゃんは網とバケツを持ち、連れ立って坂を下り始めた。

 六月に入って、空はどんよりと曇っている。梅雨だから、そんなには暑くないけれど、じめっとした感じが何か気に入らない。ひょっとしたら、雨が降るかもしれない。でも、田んぼは坂を下ったすぐのところにあるから、少しくらいなら雨が降ったって走って帰れるだろう。濡れて帰ったらまたお母さんに叱られるかもな・・・。

 そう考えるとちょっとゆううつになりかけたけれど、田んぼについたらすぐにそんなことは忘れてしまった。

 坂道のふもとにあるこの小さな田んぼは、タテヨコ百メートルくらいの広さだ。僕らの立っている道路から見ると左側は山を切り崩してつくった田んぼだからか、崖になっている。正面はコンクリートブロックで固められた壁だ。そして右側には家が四軒建っていたから、それぞれに三方向から囲まれているような場所にあった。

 田んぼには水が張ってあり、苗が植えられていた。だから、さすがにここに入ってザリガニを取るわけにはいかない。

 僕たちはこの小さな田んぼで色々な生き物をつかまえた。ザリガニはもちろん、アマガエルとか、アメンボとか、ゲンゴロウとか・・・。でもその中でも一番すごかったのはやっぱりヘビのワーちゃんだ。

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