第7話 極彩色の価値。
「ルカさーん、最近どーしたんですか?全然指名取れてないじゃないですかあー。またランクイン出来てないですよおー。もっとヤル気見せてくださいよおー!」
「…はい。」
「僕はルカさんなら、また不動のナンバーワンに戻れると思うんですけどねー!」
ああ。うるさい。
あたしはプレイルームに無駄なテンションを放り込んで去っていったスタッフに苛々していた。
客用の灰皿に、また、一本、一本、一本と、あたしの煙草の吸殻が増えていく。
もくもくと煙の籠ったプレイルームでiPhoneを取り出し、匿名掲示板のスレッドに目線を走らせると、掲示板には、決して本名では生きられないあたしのスレッドが乱立していた。
「あの刺青女、またランキング圏外とかwww」
「ルカにはプライドないんだろうね。」
「プライドのある女だったら基盤しないだろwww」
「NSで中出し一万。」
「この前ホストと一緒に歩いてるところ見たよw」
「今度はホスト狂いかwww」
「女王様気取りもいい加減にろよ。」
「BBAのくせにw」
くだらない、この中毒性。
借りていた寮を引き上げレイのマンションで一緒に生活を始めてから、たった一週間でリストにある指名ランキングの「ルカ」に付随していた極彩色の価値が日毎ゆるりゆるりと下がっている。
あたしは、レイに「ジュリ」という存在を許されるようになって、この店でのナンバーワン嬢だった「ルカ」の存在がだんだん邪魔になって、記憶からも消し去ってしまいたくなっていた。
「レイ」はこんなにも男に感情を揺さぶられて堕落したナンバーワン嬢、「ルカ」であるあたしをきっと認めてはくれないだろう。
そんな「レイ」も「リク」として、この眩い風俗街の中にあるホストクラブのナンバーワンだからだ。
あたしがレイを愛すれば愛するほどに、レイがあたしを抱けば抱くほどに、余計な感情があたしが裸になるこの仕事の邪魔をする。
「依存。」
あたしが生きてきた28年間で、初めてこの脳内に存在していることを知った感情。
毎朝、レイのワイシャツを洗濯する度に、あたしは本名の「ジュリ」として生きている、そんな人間らしさにどっぷり浸かっていられる。
同じ食事を摂っていることも、同じ飲み物を飲んでいることも、セックスでは得られないとても柔らかい気持ちがあたしの心を満たして、決して許されなかった本名の「ジュリ」として生きているのだと心から思えた。
あたしが生きてきた28年間、誰からも愛されなかったと言ったら、嘘になる。
けれどあたしが生かされていることを、世界でたった一人の人間だと許して認めてそう心から思えることを与えてくれたのは、レイ、たった一人だけだった。
あの日の激しい雨は、あたしという人間を、潤してくれた。
「リクに相当金使い込んでるみたいよ?」
「色恋って言葉知らないの?」
「まじウケるwww」
「まあ、ただの本番嬢だしねw」
「リクがかわいそう。」
「リクには本命がいるじゃーんwww」
バカ女。
あたしの価値は、レイが決めてくれる。
あたしの存在は、レイが認めてくれる。
もう、それだけでいい。
サイケデリック エンジェル。 後藤りせ @riseeee
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