第6話 クライ クライ クライ。


0:30の風俗街はまだネオンが灯されていて、深夜だというのにキラキラと明るく、あたしは眩さに目を細めていた。

たったひとつの星の煌めきよりもこの場所が煌びやかなんて、とても淋しい。


あたしが逃げ出すかのように店を出ると、BMWがぴったりと停めてあり、そこにはあの優しい目をしたレイが心配そうな顔をして待っていてくれた。


あたしは耐えきれずに、レイのスーツの中に飛び込み、声を上げて泣いた。

振り返る黒服にも通行人にも聞こえるほどしゃくりあげて泣いた。


「会いたかった。」


レイはそう言ったあたしの身体をきつく抱きしめBMWの助手席へ乗せた。

レイのつけているシャネルのエゴイストプラチナムの香りの車内は、あたしの身体や感情をも包み込んでくれているようで心から安心させてくれた。


「大丈夫だから。泣かないで。ね?」


何度も、何度も、何度も、繰り返される「大丈夫。」の言葉。


その魔法の呪文みたいな三文字にあたしの涙はひたすら止まらずに、レイの冷え切った手をぎゅっと握りしめた。


「レイ。好き。」

隠れていた言葉が唇から零れそうになる。


レイのマンションのエレベーターはガラス張りで、リアルでは味わうことの出来ない夢のような時間を与えられるはずの風俗街からゆっくりと静かに現実に上っていく。

そのエレベーターの中で、舌を舐め激しく唇を重ねたレイに、あたしは破壊されてしまうような、身体を抉られるような快感に溺れていた。


部屋に入ると、レイはダブルサイズのベッドにあたしを押し倒し、コートの下のワンピースの裾を捲り上げて性器を激しく愛撫していく。


この8年間で身に付いてしまいすっかり慣れていた演技など出来ないほどに、唇から漏れる激しい喘ぎ声にあたしを狂わせている言葉が混ざってしまう。


「愛してる。」


あのときあたしの胸で涙を流していたレイからは想像出来ないほど狂ったように、まるでセックスにハマってしまう付き合ったばかりの10代のカップルのように、躊躇いのない強い腰使いに、あたしの臓器がバラバラに砕け散ってしまいそうだった。


「ジュリ。俺だけのモノになって。」


あたしの流している涙を指でそっと拭うと、泣き叫ぶような喘ぎ声に掻き消されないように耳元に唇を当て鼓膜に囁いた。


もうだめ。

あたしは完全に狂っている。


レイは激しい息を吐き、あたしの中で果てた。


膣から垂れ流れるレイの精液が愛おしく、そしてとても刹那的すぎて、あたしは一滴残さずにこの身体の中に存在している子宮に吸収されてしまえばいいと本気で思っていた。


全身の筋肉が、ぐしゃり、と緩んだようにベッドで荒い息を吐き出すあたしとレイ。


「…ミルクティー、飲む?」


ベッドの上のあたしの荒い息が緩んできた頃に、レイの声がふわりとあたしを包んみ、こくりと頷くと、とても穏やかで優しい目を細めて、レイは笑った。


キッチンから戻ってくるレイの手に、マグカップがふたつに増えていた。


「キティちゃんのはジュリのカップ。」


そう言いながら淹れ立てのミルクティーが入ったマグカップをあたしの両手に包み込ませる。


あたしはそんなレイがかわいくて、笑った。


ネオンがぽつりぽつりと消えていくいかがわしいこの街の真ん中で笑い合うあたしとレイ。

この場所だけは、とてもあたたかくて、愛おしい。

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