エピローグ

〈明けの鴉〉のトルンは〈街〉の冒険者である。名門である〈空の大鷲〉に所属する細い体をした彼は、賞金稼ぎ組合からの依頼を受けて一路〈終の地下墓場〉に向かっていた。

「あのビュッケが弟子と一緒に帰ってこない、ねえ……。駆け落ちか? そんなこともあるものか。年か? いやあそれは無いだろう」

 トルンは誰に言うでもなく髭を撫でながら呟く。介添の案内人が怪訝な顔をした。

「いや、なんでもない。さ、行こう! 人探しのついでにお宝もいただけるといいがなあ」

 トルンはそう言うと羽根飾りのついた帽子を被り直した。そして彼らは〈終の地下墓場〉に潜り始めた。


    ◆ ◆ ◆


「おいおい、こりゃあ……」

 トルンは〈地下墓場〉のエントランスの光景を見て言葉を失った。餓死者の死体が積み重なるようにして並んでいたのだ。いずれも〈街〉の冒険者のはずだ。こんな数の捜索依頼は出ていたか? 嫌な予感がする。ビュッケの姿はここには見つからなかった。トルン達は先を急いだ。


    ◆ ◆ ◆


 そして彼らは十階の砂浜へと辿り着いた。かつてビュッケらが使っていたあばら家の周りには、簡素ではあるが二つの墓があった。一つはある賞金首のもの、もう一つはビュッケの情夫のものだった。

 そして少し離れた石棺の近くには、稚拙なつくりのビュッケの墓が作られていた。そこには彼女の刺剣と、弟子からの言葉が捧げられていた。


 彼らがビュッケの弟子であるロギインの死体を見つけ出すまでには、そう時間はかからなかった。その焼け焦げたような死体には左腕が無く、その右腕は奇妙に細かった。まるで老婆のようであった。

 そしてしっかりと刺剣を握りしめたロギインの周りの壁面には、びっしりと、事細かに、これまでの物語が書き込まれていた。

 トルンはその場で全てそれを読んだ。そして少し涙を流し、羽根飾りのついた帽子を被り直すと、ロギインの墓をビュッケの傍に作ってやった。

 

 こうして、〈魔法使いのロギイン〉の物語は、トルンの手により〈街〉へ持ち帰られ、そしてみなに今まで語り継がることになった。

 

 そして彼らは、魔法殺しの〈神話〉の一部となったのだった。その〈神話〉の力は、いつまでも、他の冒険者達の旅路を助けることになったという。

 その正の意味は達成である。逆の意味は、まだ知られていない。

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