帝都騒乱字巻

@YuzuTf

第1話 少女、拘束

 曇天の空が仄暗い暗幕を垂らす都市に、銃を下げた大きなカバンを背負う少女は一人、訪れていた。都市の前に立つ少女の眼前には巨大な鉄門と、軍服を着た男が数名立っている。

「止まれ、身分を証明する書類を出せ」

 門を通ろうとする少女の前に、軍服を着た男は立ちふさがり、彼女を止める。男のベルトには刀が帯刀され、不審な動きを見れば斬り捨てると言わんばかりの殺気を放っている。

 それをた少女は、セーラー服の左右のポッケをぽんぽんと叩き、感覚が無いのを確認すると、背負っていた大きなカバンを下ろし、中を漁り始めた。しかし、少し時間が経つと諦めたような表情を浮かべ、カバンを背負い直す。

『無い。なくした』

 少女の口が開かれ、機械的な声が返事をした。男達はそんな少女を不審に思っているのか、皆一様に訝しむような表情を浮かべている。

 暫くの沈黙の後、男の一人は門の近くまで歩き、壁面の鉄箱に掛かっていた南京錠を開けて、その中の受話器を取ってどこかへと通話を始める。

 しばらくして、戻ってきた男は口を開いた。

「将校殿からのお達しでお前の身柄を一時拘束させてもらう。処遇については帝様がご決定成されるだろう」

 そう言って、腰に下げたメモ用紙に『封』の字を書き、鞄と銃、それから両手を留めるように貼り付けた。その後、男もまた『封』と唱えると、文字は鈍い光を放ち、鎖となって少女を拘束する。少女は一連の出来事にに怯えるような様子もなく、ただ自分の有様を眺めていた。

「ついてこい。警備に当たっている者からは2名付いてくるように。これは上官命令である」

「「「「はっ」」」」

 門の警備に当たっていた兵は威勢良く返事をし、その中から二名が少女の後方につく。それを確認した上官らしき男が「では行くぞ」と声をかけると、その二人はまた威勢良く返事を返した。


 向かった先は駐屯所の地下だった。明かりは最低限しかついておらず、下へと続く石の階段は薄暗い。冷たいコンクリートで囲まれた、静寂な空間の中では、コツン、コツンと靴底の鳴る音が、いつもよりも大きく聞こえるような気さえしてくる。

 長く続いた階段が終わると、開けた空間が現れた。どうやらそこは小さな駅のホームになっているらしい。そこを飾り立てるようなものは何もなく、必要最低限の足場を明かりが照らしている。しばらくの間、少女を含む4人が暗闇を眺めていると、その向こうから明かりが現れた。それは近づくにつれて明るさを増し、一行の前で速度を落としながら前進する。

 光の正体は、薄汚れた銀色の電車だ。しかし、市民が利用するような大きなものではなく、車両は一つしかない。駅のホームが狭いのもそれ故なのだろう。電車はぷしゅうと空気の抜けるような音を鳴らすと、扉は4人を迎え入れるように左右へ開いた。

「乗れ」

 先導していた男が、少女に短く言い捨てる。少女はそれに従い、電車に乗った。続いて残りの3人も電車に乗る。運転席に座る男は、全員が乗ったのを確認すると、鐘を一つ鳴らし、再び電車を走らせた。


 駅のホームを離れ、暗い暗い地下道を電車は走る。その行く先を、前方の明かりで照らしながら……。

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