第32話:神害

頼んだ3杯のコーヒー。一つは俺ので残りの二つはダミズとヨカノの分...のはずなのだが。


俺の目の前にあるコーヒーカップは5つ。


知らないカップが2つ。


左にさっきまでいなかったはずの人間が一人。

随分と心臓に悪い登場の仕方をした季子だった。


そしてその正面に知っている女性が一人。

さっきまでいなかったはずの女性が一人。

ミレイ・ノルヴァだった。


ミレイ・ノルヴァはコーヒを右手に取り、ゆっくりと口に運びながらこちらに手を振っている。


ヨカノとダミズがガタっと机にぶつかりながらも立ち、頭を下げた。


「ミ、ミレイ様!本当にこちらにいらしてたんですね」


立ち振る舞いから何から何まで一気に変わった。

口調も目も。表情さえも一瞬のうちに変わった。

こりゃすげぇ。と思いながらも、これで必要な人間は全員揃ったな。と思った。


「う~ん。貴方達の事だからいつかは来ると思ってたけど、なんでこんなに早く来ちゃうかな。天界に私たちの情報ってどれくらいリークされてる訳?」


「す、すみません!罪人の一行にミレイ様がいるという噂が流れておりまして...それで浮き足立ってしまいまして....」


ミレイ・ノルヴァの視線が冷たくダミズとヨカノを貫く。

後先考えずに行動するのがお前らの悪い癖だとでも言わんばかりの睨みで2人を睨んでいる。


はぁ...と深い溜め息をつき。ミレイ・ノルヴァはこう言った。


「まぁ、そろそろ人手が必要になる頃だったからちょうどいいんだけどね」


「で、本題なんだけどね....」


柱に寄りかかっている俊介が、俺は?と言わんばかりの表情をしている。


「え、俺はスルーですか」


そう言って俊介は席に座り、コーヒーを一杯注文した。


「いや、貴方は立って聞くのでしょう?」


「ひでぇなぁ、おい」

俊介が不貞腐れた様に言った。


不貞腐れているとは言え、言い方に深刻さが入っている。

ただのブラックジョーク一つで空気が重くなる。


ヨカノとダミズもゆっくりと席に戻り、これから話す内容に恐怖心を覚えているように見えた。


「じゃぁ、早速だけど天界のリーク情報って今どうなってるか教えてもらえる?」


「はい。我々の耳に届く情報は罪人の一行の人物像のみで、天界に面識のあったミレイ様と俊介の正体がほんわかと噂になっていたところです」


ヨカノがそう言うとミレイ・ノルヴァはゆっくりと溜め息を付いた


「やっぱりもう少し遅くに来てくれればもう少し分かったのになぁ....」


「もう少し分かったって何が?俺等の情報が向こうに漏れてない方が俺等的にはベストだと思うんだが...」


思ってたことが思わず口から漏れた。自分を追い込んで強くする~と言ったのとはまた違うニュアンスの言い方だった。


「リーク情報が出てて、ヨカノとダミズが下界に降りてる時点で、私達を監視している人間が居ることぐらいは分かってるよね?問題はその監視を【誰がやってるか】なんだけど、リーク情報がこうも曖昧だとどう監視されてるかすら分からないのよ...」


監視されていることに気付いていなかったのだが...ここでは言わないほうがいいだろう。

監視されてる気配すら感じなかった。奇怪な現象が起こりすぎて気付かなかったか?そんなはずはない。


季子の【ハイド】の能力なら気づかれずに監視することぐらい造作もないだろうが、【ハイド】レベルの神が天界にはうじゃうじゃ居るのだろうか?


身の毛が逆立つほどに気色悪い。


プライバシー侵害とかいう話じゃなく、もうここまで来るとプライバシー神害だ。


神害...まさしく今の俺の状況をそのまま表した言葉だ。

自分から望んだとは言え、こうも精神的な負荷がかかる出来事が起こるとは思ってもいなかった。


「す、すいませんでしたああッ!」


ヨカノとダミズがすごい勢いで頭を下げた。

今日一日で何回こいつらの謝罪を見た事か。


「でも俺らが監視されてるなら前に季子がやったみたいにカマかければいいじゃないか」


「だめ、というか不可能よ。相手は能力使いだし、こっちが監視に気づいたら即刻消しに来る、それこそヨカノとダミズがしたみたいにね。あの時は対策を練ってあったし、向こうもミレイさんの側近を本気で殺しにはこないって踏んでたからなんとかなったけど、相手は本職の神よ?万全の対策を練っても勝てるビジョンが見えないわ」


季子はそう言って2人を睨んだ。監視を剥がされたとは言え、すぐ攻撃してきたのを根に持っているのだろうか?


「でも、監視されてる可能性があるってのにこんなところで堂々と話してていいのか?」


「あ、その点は安心して【ハイド】をここの席一帯に貼ってあるから、少なくとも意識的に私達の話している内容を理解するのは不可能よ。飲み物を注文するときだけは一時的に解除しているから危ないっちゃ危ないんだけどね」


危なすぎるだろと突っ込みたくなったが、季子の姿が分からないだけじゃなくミレイ・ノルヴァを認識できなかった理由もこれで分かった。


まぁあんな感じに周りから見えているなら問題はないだろう。

それにしても希子の能力...ちと便利すぎやしないか?


まぁ、心強い仲間である事は確かだ。


「本題に戻すんだけど、今天界離脱許可証の発行数がおかしい事になってるらしいの...そうね?」


「はい。俺達が出る時も申請が極端に簡単になっていました。天界離脱許可証の発行数が増えている事の裏付けになっていると思います」


「おい待て、ミレイ反発派ってそんなに数居なかったよな?そんな数下界に送り込んで大丈夫なのか?」


俊介が突っ込んだ。【ミレイ反発派】というのは文字通りミレイ・ノルヴァをよく思っていない連中と捉えていいのだろうか。


だとすると追っ手の半数以上が【ミレイ反発派】という事か。そりゃ反発派が誕生するほどビックな女神が実は罪人でしたみたいなスキャンダルが起きたら天界は大騒ぎするだろうな。


なんだか違和感が急に消えていったた気がする。


天界の追っ手に俊介達がここまで過剰反応している理由も分かった。

そりゃ反発派なんて物騒な名前の連中が来るのだから慎重にもなるわな。


「違うよ俊介。増えたんだ、お前のせいで」


「え?」


ダミズのその発言で重かった空気に冷気が入ってきた。

耐えられるかな....この空間に...。


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記憶改竄的現世界物語 @samo_samo

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