第5章:反発派の追っ手
第31話:神カフェ
落ち着いた雰囲気のカフェ。
カフェ自体あまり足を運ばないのだが、コルクのいい匂いがするこの空間は嫌いじゃない。
目の前に全く落ち着かない様子の若い男女が2人。
そう、ダミズとヨカノだ。
本人の前では言えないが、未だにこいつらのフルネームを覚えていない。
なんというか覚えにくい。
日本人離れした名前だし、ヨカノに関しては違和感しかない。
まぁ心の中で人の名前に関する愚痴を言っていても始まらないのだが...。
「で?なんでお前らそんなに挙動不審なの?」
「そりゃそうですよ。見知らぬ土地で見知らぬ施設に連行されて...ましてやこれからミレイ様が来るんですよね?そりゃ不安にもなりますよ」
あの【時間のシミュレーション世界】の一件以降、この2人は俺に敬語で話すようになった。
神でもないただの人間の俺相手によくもまぁ敬語が使えるものだ。
まぁ天界人全般がそうなのかはよく分からないが、少なくともこの2人は上下関係を気にするタイプのようだった。
「まぁいいや、見知らぬ施設ってことはカフェとか知らない訳?」
「少なくとも天界にこんな施設はありません」
こんなってなんだよとも思ったが、ちょっといじってみたくなった。
「そうか...店員さん、ブレンドコーヒー3つお願いします」
コーヒーは確かに上手いが、あの真っ黒な見た目から味は容易に想像できない。
だからこそ注文した。こいつらのリアクションが気になる。
「勝治さん、そのブレンドコーヒーってのは何ですか?」
ヨカノの方が聞いてきたが、ここで味を想像できるようなヒントを与えてしまうとリアクションを見るという楽しみが減るから言葉は慎重に...。
「飲み物だよ。普通のドリンク」
「ブレンドコーヒー3つお持ちしました」
ウエイトレスさんが机の上にコーヒーを並べる。
陶器が机にぶつかる時のカツンカツンという音はなんというか至福に近いものを感じる。
まぁそれより、目の前の光景に対する感想を述べさせてもらおう。
想像通りだ。
最高すぎる、というかおもしろすぎる。
顔に[え?今からこれを飲むの?]と言うのが浮き出ている。
そして俺の顔とコーヒーを交互に見る。
何がお面白いって、交互に見るタイミングが2人とも一緒だから面白い。
正直ここまで面白いリアクションをしてくれるとは思ってもいなかった。
「勝治さん...これって...」
ダミズが毒を盛られて犯人を睨むような目で聞いてきた。
本人には申し訳ないが笑いをこらえるので必死だ。
「ブ、ブレンドコーヒーだよ」
あーダメだ、こらえられない。
「フフフッ...何その毒でも見るようなリアクション、最高すぎ。フゥ....普通のコーヒーだよ、普通に美味しいやつ」
そう言って俺は自分のコーヒーをゴクッと一口いい飲みっぷりで飲んでみせた。
ダミズとヨカノが心配するような眼差しでこっちを見てくる。
コーヒーを吹き出しそうになったが頑張ってこらえた。
まさかここまでのリアクションをしてくれるとは思ってもいなかった。
やっぱこの2人面白い。
ヨカノがコーヒーに手を伸ばし、一口飲んだ。
ダミズは正気か?と言わんばかりの表情をしていたが、ヨカノの表情には驚きの感情が浮かんでいた。
「あ、普通においしい....」
「だろ?まぁコーヒーだしな」
それを聞いてダミズもコーヒーに手を伸ばし、一口飲んだ。
最初眉間に皺が寄ったのは苦かったからだろうか?
でも後味は気に入ったようで、フゥ...とおっさん臭い溜め息を付いた。
「おいしいですね、これ。天界じゃまずこんな味ないですよ。初めて飲みました」
リアクションを見ればそれぐらい分かるよ。と言いたかったが、これ以上はちょっと失礼になりそうだから気をつける事にした。
「よぉ勝治、楽しそうにしてんじゃん」
俊介がやって来た。
ゆっくりと席に着いたと思うとニヤリと笑った。
「いや、ごめん。コーヒーの件聞いてたんだけどさ、お前らどんだけオーバーリアクションなの」
俊介は半笑いでそう言った。
「地上人じゃないんだから知らなくて当然だろうが」
ダミズが半ギレでそう言った。
「下界するなら予習ぐらいしとけよ...」
そんなやり取りをしていると、一瞬すごい殺気を感じた。
左に季子が座っていた。
「わっ!ビックリした」
思わず情けない声が漏れた。
【ハイド】ってよくよく考えると暗殺面において他のどの能力より優れてるなと思った瞬間だった。
ホントに心臓に悪い。
「そう?結構前からミレイさんとここにいたんだけどね」
「え?」
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