第30話:女神の部下
「で、勝治さんだっけ?どうやってこの【時間のシミュレーション世界】をそんな速さで動いてるわけ?時間を操作する能力ではないんでしょ?」
赤髪の堅物...確かヨカノだったか。
なんというか、この2人からは俊介達に振り回される俺に似た【何か】を感じた。
「いや、簡単だよ、滅多に使わない...というか使いどころが無いんだが俺の【記憶を改竄する能力】って実は未来も1日程度なら改竄出来るんだよ。だから俺がそっちに行くまでの6分間を白紙にして、無かった事にした訳、多分喰らう方からするとこっちの指定した時間分時間をすっ飛ばしている様に感じてると思う。」
炎と水の神が俺の目の前で驚いた表情をしている。
俺は生まれて初めて神に困惑の表情を浮かばせた。なんというか謎の達成感がある。
「ところで、貴方達の仲間にナイフの扱いが上手い女性の仲間っていますか?」
今度はダミズの方が、突拍子のない話を持ちかけてきた。
ナイフの扱いが上手いかどうかは知らないが、ナイフが大好きそうな奴...というと季子だろうか?
「季子なら居るけど、どうして?」
「俺等、その女性始末しちゃってますよ。昨日」
急に空気が重くなった。
平気な顔で人殺し宣言をする。こいつらも所詮神と言った所だろうか、まぁ俊介の読みが当たってるなら始末は出来ていない。こいつらの能力を調べるっていう目的なら話を聞いて損は無さそうだ。
「で、あいつそこそこ強かったと思うんだけど...どうやって始末したの?」
「随分軽々しく話すんですね、大事な仲間が死んだって言うのに....まぁ仲間の死で悲しむような人間にミレイ様の護衛が務まるわけもないですし...そうですね、お話しましょう」
まぁ色々突っ込みたいんだが、コイツらのミレイ・ノルヴァに対するこの忠誠心は何なのだろうか?
信仰に似たものを感じたが、部下と考えるならやはり忠誠心と表現するのが正しいのだろうか?
ダミズは深く溜め息を付き、落ち着いた口調で話始めた。
「彼女の始末は、本来仕事では無かったのですが、勝治さんとその季子さんでしたか?罪人の特徴にぴったり当てはまる御2人が一緒にいるのを見かけたものですから、僕とヨカノで監視をしていたのですよ。完全に気づかれないように隠れて気配も殺気も何もかも消していたのに、何故か季子さんにはバレてその日の夜に声をかけられたんです。一応監視という名目だったので、邪魔されたり正体が身ぐるみ剥がされるのは神としての建前上宜しくないので始末させてもらったんです。しかし罪人の皆さんがこれ程の腕前の持ち主だと知らなかったので、今となっては申し訳ない限りです。ごめんなさい」
そう言うとダミズは俺に深く頭を下げた。ヨカノの方もそれに続けて頭を下げた。
「多分お前ら始末失敗しているぞ」
俊介が話をぶった切った。
ヨカノとダミズは驚いた表情で俊介の方を振り向いた。
「いや、気配を消しているのに居場所すらバレたってどういうことか考えてみろよ、お前らが監視しているって事を予め知ってないと出来ないだろうが」
「え?」
ヨカノの口から疑問の声が漏れた。
ちょっと情けなさを感じたが、俺もいつもこんな感じなのだろう。と思うとちょっと気が引けた。
「そりゃ神として自分の腕が否定されるのは嫌かもしれんが、相手は元女神と神の資格を持つ罪人の一行だぜ?そんな並みの凡人が相手じゃないんだから念押した始末の仕方しないと護衛は務まらんよ」
そう言って俊介は指を鳴らして空の方に指をさし、能力を唱えた。
「ウッドソード」
空中に歪みが出来てそこから季子が現れた。
ゆっくりとフワフワと神々しく落ちていくんだが、パジャマ姿なのがどうも残念だ。
「あのさ俊介、予告なく急に呼び出すのやめてもらえない?寝てたんだけど」
ヨカノとダミズの顔に驚きの表情が濃く出ている。
目がパッチリ空き、目の前に起こった現象が理解できない顔をしていた。
「どうせ暇だったろ?ならいいじゃないか」
「そういう問題じゃなくてね...」
そう言いながら季子はダミズ達の方を見て、まじまじとその全体を見回した。
「貴方達そんな顔してたのね、意外と若いじゃん」
ヨカノとダミズは理解できないビックショックを受けたせいか何も喋れなくなっている。
「私確かに燃やしたのに...能力に手応えもあったのに...なんで?」
ヨカノの目が泳いでいる。理解できなく処理も追いつかないからかすごく怯えてるようにも見える。
「あ~私ね、貴方達が監視していることに【気づいた】んじゃなくて、【考えた】のよ、そりゃ貴方達みたいな人が来るだろうってことぐらいは最初から分かっていたけど、来るとしたら私達が一緒にいるタイミングだろうからと思ってね。昨日一日とりあえず勝治の家にいたらあっさり釣れたって訳、最悪来るまで何日も続けようと思ってたんだけどその必要もなかったしね」
驚きの表情が濃くなっている、そして俺も驚いている。
昨日一日..というと朝の不法侵入もそれが原因だろうか。
完全に意味のない遊びだと思っていた。仮に何かの意図があったとしても、それがこれ程のものとは思ってもいなかった。
やはりコイツは化物だ。
トラップを仕掛けた...と言えば あ~そうなのか。で終わりだがこのトラップは完全にそうなのかの枠を越している。
なにせ攻撃サイドが自分でトラップを作り、そこに自分から入るトラップなのだから....。
恐ろしすぎるだろ本当に...。
1日中不法侵入された不快感も、さっきの一言で全て吹っ飛んだ。
これだけでもかなりのビックショックだが、彼等にはもっと大きなビックショックが襲っているだろう。
「で、手応えの話なんだけどね。私の【ハイド】の能力、認識阻害がメインなんだけどね、操作できるのは相手が認識と考えてるやつなのね、だから貴方が熱で感知してた私の姿は、実際は【ハイド】で作られたフェイクなの。だから貴方が燃やした物体は私に見えた私のフェイクなのよ」
「え...!?」
「はは、プライドも何もねぇな、まぁ今はとにかく人手が欲しいんだ、このタイミングでいうのは申し訳ないんだがどうだ?仲間になってもらえないか?ミレイ・ノルヴァの護衛につくなら仲間になってもらったほうが早いし、もうお前ら天界にしばらく帰れないだろ?追っ手からも守ってやるから」
俊介はニコリと笑い、そう言った。
プライドがマッハで砕けたり、自分の正体が身ぐるみはがされたり、予想外の出来事が連続したりと、めちゃくちゃな事がすごい勢いで起きてもはや処理出来るできないの問題ではないだろう。その気持ちはよく分かる。
そしてなにより、神でもない人間が、現役の神より優れたことをやった。このビックショックで砕けたプライドは中々来るものがあるのだろう。
空気がすごい勢いで重くなって行く。
重く...重い空気の中。
2人組の神はゆっくりとその空気に重くされた口を開けてこう言った。
「おねがい...します...」
二人は深く頭を下げて、そう言った。
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