箸休め そして決戦へ……

 聖暦一八九四年、五の月上旬。


 永きに亘る〈人魔大戦〉は、いよいよ決着の刻を迎えようとしていた。

 一進一退の激しい攻防が繰り広げられる中、ヴルート大陸で猛威をふるっていた魔族の幹部を勇者が打倒。


 その活躍に人の戦意は高揚し、大将撃破に揺れる魔族を追い詰めにかかった。


 ――ところがである。


 長らく城に引きこもっていた魔王が再び姿を現しはじめると、傾きかけていた戦況は一気に覆されてしまった。


 超長距離の転移魔法で神出鬼没に出現しては、各戦場に破壊と恐怖を振りまいていく魔族の女王。その災害じみた暴虐の前では、兵の数など意味をなさない。


 たとえどれだけ奮闘しようとも、総大将たる魔王をなんとかしなければ、人の勝利はあり得ないだろう。


 そう考えた人々は、やむなく魔族の根城へ攻め込むことを決意し、その大任をたった一人の人間に押しつけ……もとい、託した。


 勇者。魔王と同じく『個』で戦況を左右するほどの影響力を持つ、人類の希望。

 これまで謎のベールに包まれていた勇者は、魔王との決戦を前にしてとうとう大衆の前に姿を晒し、沸き立つ人々と神剣に自らの勝利を誓った。


 その者の名は――


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