箸休め 反撃の刻

 勇者の快進撃により一時は有利に立った人間たちだが、それも所詮は『勇者』という個人の力だ。


 名立たる将を討ち取られたとはいえ、魔族率いる魔物の軍は依然として強大であり、勇者を除いた人の力では、やはりなかなか太刀打ちできない。


 勇者が取り戻した領土の多くも、勇者が去るとほどなく魔族に攻め入られてしまい、みるみる奪い返されていった。


 加えて魔族側には、勇者と同じく絶大な力を持つ魔族の女王――〈魔王〉ルイーナが君臨しており、ひとたび魔王が戦場に降り立てば、人は荒れ狂う漆黒の雷によって塵芥のごとく蹂躙された。


 魔王はこの世界の人々にとって恐怖と畏怖の対象であり、勇者の力を以てしても打倒できるかわからない、死と絶望の象徴だった。


 ――ところが、である。


 聖暦一八九四年。四の月に入った頃から突如魔王の襲来が減り、戦争に介入してくる頻度が著しく低下したのだ。


 魔王はどうやら、本拠地である城の内部に閉じこもっているらしい。


 臣下を次々撃破している勇者に恐れをなしたのか、あるいは予期せぬアクシデントに見舞われたのか。


 詳細は不明だが、これを好機と捉えた人々は『守り』から『攻め』へと転じ、勇者の力に頼ることなく領土を奪還しはじめた。

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