Episode 25 櫻花の旗の下

25-1.喫茶「ロータス」

 駅前商店街のはずれにある喫茶「ロータス」は今日も閑古鳥が鳴いていた。なにしろ客は店主の身内ともいうべき宮前仁だけであったから。


「おう、どうした? そのあざ」

「龍王高校の奴らにやられたっすよ。あいつら最近県外の族と仲良くしてるらしくて幅聞かせてるっす」

「県外の族?」

「どうにもきな臭いっすね、ここんとこ」

 換気扇の下で紫煙をくゆらしながら志岐琢磨は目を細める。

「今日集まって話したいのもその辺の情報交換で」


「おっと、そうだ。あいつが来るんだな」

 琢磨は慌ててまだ半分ほども残っていた煙草の火を消した。

「あんまりタバコ臭くしてるとうるさいからな」

「ったく、タクマさんまでなんであいつに甘いんすか。だから付け上がるんすよ」

「いいだろう。かわいいんだから」

 いくらだって付け上がればいい。自分の度量はそんなに狭くはない。


 噂をすればで、準備中の札を下げてブラインドを下ろしていた入り口のドアがどんどん叩かれた。

「私だよ! 開けて!」

「いくつになってもまったくおまえは……」

 言いながらドアを開けてやると中川美登利がにこにこしながら入ってきた。

「お邪魔します」

「おう」

「誠は?」

「綾小路と一緒に来るって」


「美登利、パフェ食うか? おまえの好きなチョコソースあるぞ」

 ぱっと顔を輝かせた美登利だったがすぐに口元を引き締めて首を横に振った。

「いや、いい。大事な話をするんだから緩んでられない」

「お、えらいじゃん」

 カウンターで頬杖をついて宮前がからかう。

「不味いコーヒーで我慢するよ」

「いくつになってもまったくおまえは……」


 そう言う琢磨の顔がさっきから緩みっぱなしだ。これが伝説多き櫻花連合総長の中でも最強と名高い男かと目を疑う連中はごまんといるだろう。

 実際、琢磨自身も驚いている。荒くれた青春時代しか知らない自分のような男が、こんなお坊っちゃんたちのお目つけ役を買うはめになるとは。


 軽口をたたき合っている美登利と宮前を見ながら琢磨は思い出す。

 そう、すべてはあの魔王の襲撃から始まった。


 かれこれ七年もの前、ここは喫茶店などではなくただの荒れたガレージで、現役総長だった自分は毎日ここで手下どもとたむろっていた。季節もちょうど今くらいのことだったように思う。


 そろそろ暑いな、と誰かが口にして二三人がシャッターを上げに行った。

「なんだ!?」

「テメ……ッ」

 ガシャンと派手な音が響いて「討ち入りか?」と全員が腰を浮かせる。

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