25-2.なんだ、こいつ?

 現れたのは品良くブレザーの制服を着こなした高校生。見慣れないエンブレムだ。


「なんだ、テメエ」

「こんにちは。僕、中川巽といいます。青陵高校で生徒会長やってます」

「青陵……」

 西城学園の理事の一人が創立したと聞いている。いずれにしろお坊っちゃんたちがお遊びで通う学校だろうと琢磨は認識していた。


 だが、なんだ? 今目の前にいるこいつは。

 見てくれだけならどこぞの上流階級の子弟のようだが、微笑んでいるはずのその顔から得体の知れない威圧感を感じる。琢磨を動けなくさせるほどの無言の圧力。


 本人に気を取られすぎて琢磨は気づかなかった。

「いいから、そいつを放せ!」

 琢磨の脇に控えていたひとりが叫ぶ。

「ああ、そうだ。ごめんなさい、忘れてたよ」

 無造作に巽は握っていた手を開いて、どさっとそれを下に落とした。間違いなく仲間の一人だ。


「ひでえ、アザになってる」

「骨、折られるかと思った……」

 自分の腕を押さえながら先ほどまで巽に引きずられていた仲間が言う。

「どういうつもりだ! え?」

「本当にごめんなさい。その人とはさっき駅前で出会ってね。櫻花のメンバーだって言うからここを教えてもらったんだ。僕、前から総長さんに会いたいと思ってたから」


「脅してここを聞き出したのか」

「やだなあ、違うよ。それとこれとは別の話で。そもそも彼がね、僕の妹に触ろうとしたからやめてもらいたくて」

 なんだ、こいつ? 

「そしたら櫻花の人だって言うから、案内してもらったんだよ。あの、それで総長さんはどなたですか?」


「志岐さん、こいつやっちまいましょう」

 止める間もなく何人かが中川巽を取り囲む。

 やめておけ、とは思ったが黙っていた。どうせ言ってもわからないだろう。


 わっと飛びかかった五人があっという間もなく床に転がっていた。

 拳や蹴りがいなされかわされ、勝手に自分たちでもんどりうって転がって、連中は目を白黒させている。


「もうやめろ」

 息を吐いて、琢磨は立ち上がった。

「俺が総長の志岐だ」

 にこりと笑って中川巽は琢磨と向かい合った。


 このときのやり取りで約定されたのは、櫻花の青陵に対する不可侵と有事の際の無条件協力。


「一方的なわけではないよ。もちろんこちらも助力を惜しむつもりはない。持ちつ持たれつっていうの? とはいえ、うちはまだ体制も整ってないし、動けるのは僕だけなんだけど」

「おまえ一人でなにができるっていうんだ」

「ははは。そう言われてしまうとあれだけど、僕やってみればなんでもできちゃうからいろいろお手伝いできるとは思うよ。本気の話」

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