23-7.じゃんけんは心理戦

「最初はグーでいくよ。いいかい?」

 安西が進行するのを遮って美登利が言った。

「そしたらね、私はパーを出す」

 目の前でパーの手を出して笑う。

 あからさまに和明が動揺した。


「……じゃあ、いくよ。最初はグー、じゃんけんぽん」

 和明はパー、美登利はチョキ。

「あら、勝っちゃった。あなたはチョキを出すだろうからあいこかと思ったのに」

 チョキの指を上げたままにこっとする美登利を和明は呆然と見る。


「勝負あったね」

 安西が声をかけたが返事がない。

 美登利が偉そうに腰に手をあて提案した。

「納得してないみたいだからもう一回やる?」


 こっくり頷いて和明は拳を上げた。

「オレはグーを出す!」

「ふうん。それなら私はパーを出すよ」

 まさかの宣言返しにただただ絶句する。


「いくよ、最初はグー、じゃんけんぽん」

 和明はパー、美登利はチョキ。

「あら、また勝っちゃった。グーを出すって言ったくせに」

 もはやその笑顔は悪魔にしか見えない。

「もう一回」

「いいよ」


 こうして何度も何度も対戦が繰り返されたが、和明はあいこどころかただ負け続ける。


「ね、言っただろ。じゃんけんは心理戦だからさ、ああなったら終わりだね。彼は絶対に勝てないよ。なにしろあいつは、とびきり性格が悪いから」


 小声で言いながら誠は安西に目線を送る。

 安西は肩を竦めて扇子を仰いだ。


「さあさあ、これで納得したかい? じゃんけん勝負は中川委員長の勝ち。これで終了!」

 体育部長の宣言に野次馬たちはばらけて行った。


「そういうわけで、あなたは下僕だね。平山くん」

「やあやあ良かった! 君のことは体育部会で迎えたいと思ってたんだ」

 安西の言葉に副職の尾上ががっしりと和明の腕を取る。


「まずは体育祭で応援団をこなしてもらう。頼んだぞ」

「ええ!」

「安西の下僕として頑張って」

 にんまり笑う中央委員長をただただ見つめて平山和明は引きずられていく。


 その光景を屋上から眺めていた澤村祐也が隣の和美に向かって言った。

「ね。結局みどちゃんは自分でどうにかしちゃっただろう。いつもそうなんだ。僕がしてあげれることなんて、もういくらもないんだ。あとはそう、みどちゃんが望む通りの最後になるのを見届けるだけ」


 それしかできないんだ。寂しそうに笑う彼に、和美もやっぱりなにもできない。

 みんなが誰かを想っていて、寂しくて、優しくて。

 なのにどうしてこんなに、みんなが切ないのだろう。涙が出るんだろう。苦しいのだろう。

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