9-7.天の助け

 最短距離で目的地へ向かおうにも必ずそれを阻まれる。回り道をして見張りの少ないルートを選んでいくのだが、どうにもこれが彼のような性格の主にはまわりくどくてイライラする。


 それにもまして、これから向かわねばならないのは二年一組の教室。二年生の教室というのがどうにも不安をかりたてる。案の定、

「あー来た来た!」

 正人を出迎えたのは二年のお姉様方、だった。


「来たわね、池崎くん。待ってたわよ」

「……」

「キミが欲しいのはこれでしょう?」

 ひとりが手にしているのが次の場所を記したメモのようだった。

「欲しいでしょう、池崎くん」

「そりゃあ」

「わたしにキスできたら渡してあげる」

 瞬間、頭の中が真っ白になった。


「な、ななな……」

「いやん、かわいいー。池崎くんたら照れちゃって」

「さあさあ、やってちょーだい」

 ふざけてる。非常にふざけてる! しかしここで一体正人にどうできるというのか。心ならずもリタイアの文字が頭に浮かんだとき、天の助けが現れた。


「こら。純真な子をからかったりしちゃ駄目だよ」

「澤村くん」

「意地悪しないで渡してあげて」

「でも」

「みどちゃんはこんなことしろとは言ってないでしょう」

 どこまでも穏やかな物言いだったが、効果は抜群だった。彼女は肩を竦めて手にしたメモを正人に渡した。そうしながら、軽く澤村の方を睨む。

「澤村くんたらこの子の味方するの?」

「とんでもない」

 柔和な面差しに穏やかな微笑をたたえて澤村は答える。彼女はもう一度肩を竦めて友人らと顔を見合わせた。


 澤村に促されて一緒に教室を出たところで正人は口を開いた。

「あの……」

「きみにはみんな期待してるんだよ。頑張って」

 優しい目で自分を見つめる澤村に正人は驚いてなにも言えなかった。

 どうして自分を助けてくれたりしたんだろう。彼の背中を見送りながら正人は首を傾げる。だって、あの人は。


 正人はふるふると首を振って雑念をはらった。そんなこと気にしてる場合ではないのだ。

「次、次!」

 手にしたメモを開いた正人は次の瞬間凍りついた。

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