盲目のピエロ

おとま めい

第1話

この世界の歴史上には、数多の独裁者が存在している。

しかし彼らは一様に、盲目だった。

闇しか見えなかった。

まるで顔のない、道化のように。


とある昔に、まほろばのような王国があった。

商業は栄え、肥沃な大地ゆえに農業も充実し、国王はすべての民に主権があるという自論に基づいて政を行う。なにもかも満たされた、温かな国であった。

世界は無常というけれど、

この国ではとこしえの平和が千年先まで続く。


そう人々は考えていた。


しかし、それは溶けだす氷山のようにあっけなく、いとも容易く崩れていった。

どんなに大きくよくできた歯車も、狂う日がやってくる。よくできているからこそ狂うときはいっそう狂おしく、音を立てて崩れていくのかもしれない。

何がこの平和の歯車を狂わせたのか。

それは「侵略」という名の「戦争」だった。

肥沃な大地や豊かな自然を守り末代まで続かせるため、この国は鉄砲や大砲などの近代兵器を一切、受け入れてこなかった。古代から続いているという保守的な姿勢や、その魅力的な風土が列強の目に止まり、たちまち餌食になったのだ。この国はちょうど、未知なる美味の、飛ぶことのできない鳥のように恰好の餌食だったのだ。

しかしそれだけなら、無力のままで隷属するだけならばまだよかった。

外観や史書だけを見て攻めてきた愚かな強者たちは侵略してはじめてその国の低い技術レベルや古い考えを痛感し、興醒めしたのだ。そしてそのまま用なしとなってしまったこの国の本土を戦場にして、列強は勝利を確信しながら、ほとんど「襲撃」に近い形でその国に宣戦した。

無論、何世紀もかけて作り上げられた美しい自然や街並みの大部分はこれまで受け入れられなかった最新の兵器によってあっけなく焦土と化した。

市民徴兵で寄せ集められた槍部隊の小さすぎる戦力で世界の最新兵器を用いた大きすぎる戦力に勝てるわけもなく、兵団の半数が戦死や負傷にあえいだ。国王はそれを受けてすぐに降伏した。

しかし、列強の国は侵攻するだけに飽き足らず、攻めたすべての国がこの国の政治に介入することと、数年では払い切ることができるわけがないほどの賠償金を国に要求した。

国王は民を守るために引き受ける、とすべてを承諾して降伏した。それにより国民にかかる税は一気に重くなった。

これまで平民に比べて軽い税で済まされていた貴族たちは今までの数十倍もの徴税に加え、「国への寄付金」という形で家に押入られたり、強制的に金品を取り立てられ、瞬く間に没落していった。

「こんな待遇まるで、汚らしい市民のようじゃないか……!!」

どの貴族もそんな捨て台詞のような痛々しい叫びをあげながら国王を強く憎んだ。そして国外退去したり、ひっそりと都を離れて暮らすようになった。


ライムンド家も、そのひとつだった。

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