異世界失格 地獄篇

白川津 中々

第1話

 異世界に飛ばされて十年が経つ。

 相変わらずスライムを湯煎した栄養補助食に頼る毎日だ。コケやカビ。酷い時など屍肉の味がする。もう少しまともな餌を摂れというのだ。


 事の発端はやはり十年前。家族でキノコ狩りをしていたところに月の輪熊と遭遇したのだが、元グリーンベレーの俺にとっては小型の熊を屠るなど造作もなかった。奴の前足による爪襲をサイドステップで躱し即反撃体制へ移行。S&Wエクストリームオプスを抜刀しそれを側頭部に突き刺した。だが、さすがは野生の熊だ。硬い皮膚と頭蓋は俺の刺突を食い止め、もがきながらそのまま走り崖から落ちてしまったのであった。刺さったナイフと、それを握った俺と共に……


 そして眼が覚めると俺は豪華なベッドで寝ていた。若い女の声が目覚まし代わりだった。開口一番「私たちの世界を助けてください」などとのたまったのだ。話を聞いてみると魔王が魔物を率いて人類を滅ぼそうとしていると涙ながらに語ったのであった。そしてこの世界には、救世主が熊と共に訪れるという伝説があるらしかった。俺が「熊は死んでいるが」と言うと、女は知らんぷりを決め込んだ。


 ともかく俺は言われた通り魔王討伐へ向かい三日で城を落とした。セガールの映画を観ていて本当に良かったと思う。俺は意気揚々と女のところに戻ると驚愕し「まさか本当に魔王を倒せるとは思ってもみなかった。しかも三日とか。キャンプじゃないんだから」などとほざいた。


 そうして俺は飯に毒を盛られ気付けば洞窟に閉じ込められていたというわけである。死んだ熊もそこに押し込まれていた。とんだ天の岩戸だ。いつになったらストリップを見せてくれるのか。グリーンベレー式サバイバル術と鋼の精神で今日まで生きてきたが、先の見えない絶望というのはどうにも堪える。暇潰しに読んでいた聖書も丸暗記してしまった。そろそろ、名誉ある自決を考えてもいい頃かもしれない。


 そんな折にどこからか声が聞こえた。


「ヨシュヤよ。ここを出たいか」


 どこの誰だか知らないし、高慢ちきで偉そうな言い方で気に入らなかったが俺は素直に「出たい」と言った。すると「出してやろう」と、また声が響いたと思った途端、塞がっていた入口が開き辺り一面に眩い光が広がっていった……


 気がつくと汚い部屋……というより馬小屋に寝かせられていた。馬の代わりにロバと牛がいるらしく、位置関係からして俺は飼い葉桶の上にいるらしい。あぁこれはしまったなと思ったが後の祭りである。その後俺は三人の賢者に祈られ、石をパンに、水をワインに変え、最後は裏切られて磔にされた挙句串刺しにされて死んでしまった。その後なんとか復活を果たしたが、目を覚ましたのは豪華なベッドの上で若い女の声が目覚まし代わりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界失格 地獄篇 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ