陰謀論?

平 一

陰謀論?

1 テレビを見て


 NHKが放送したドキュメンタリー番組の冒頭に、興味深い場面がありました。

( Youtube『イランの核開発とイスラエル・アメリカの経済制裁』

 https://www.youtube.com/watch?v=hMrtddzcrR8)

イラン国営放送が制作した番組を、NHKが放送していたのです。


 その中で英国の元大臣(ただしイラン寄り)が、『米国は冷戦時代、核兵器材料となるプルトニウムを生産させるため、パーレビ王政時代のイランなど、発展途上国にも原子力を売り込もうとしていた』と発言していました。


 そういえば他にも、『ベトナム戦争時、米国は南ベトナムから実験用原子炉の燃料を回収するのに苦労した』とか、『日本の原子力開発は、〝被爆国の日本も平和目的で原子力を活用している〟というPRのために支援された』ということを描いた、ドキュメンタリーを見た記憶があります。


 しかし冷戦終結後、米国とロシアではいつの間にか手打ちが成って、軍事用プルトニウムの生産炉を止めようという協定ができていたのです。

 

 特に東日本大震災以降は、途上国への核拡散に示しがつかないから日本も再処理を止めよ、と求める米国の政策変更もありました。


 そんな時代に放映された、このような番組は、いったい何を物語っているのでしょうか?



2 日本史を振り返って


誤解を恐れずに言えば、

● 軍国路線も(軍事力を背景とした植民地経営が、白人諸国の侵略ではなく文明普及の手段であることを、有色人種国家も仲間に加えることで示したかった?)、

● バブル経済も(ジャパン・アズ・ナンバーワンは、冷戦を実戦にすることなく終わらせるための、西側世界のショーウインドウとしての演出だった?)、

● そして原子力行政も(冷戦下の、核兵器による〝恐怖の均衡〟を通じた大国間の戦争抑止のために必要とされた?)、

当初においては国際的な役割を果たし、国益にもかなっていたのかもしれません。


 しかし、以後その前提となる国際情勢が変化していったにも関わらず、国民全体にその認識が乏しかったので、 関係〝業界〟の方針転換が遅れ、いたずらに犠牲や損失ロス費用コスト危険リスクを増やしてしまったのではないでしょうか。



3 世界史を思い出して


 陰謀論のようですが、それとは別に、歴史の教科書にも載るような、後から判明したり、公開されたりする秘密政策も結構あります。私は東西冷戦自体にも、演出の部分があったのではないかと思います。核兵器による〝相互確証破壊(MAD)〟への恐怖のおかげで、世界大戦は避けられたのかもしれません。


 冷戦時代に騒がれた爆撃機ボマー・ギャップもミサイル・ギャップも実は存在せず、偵察機のU2は落とされたがSR71はソ連上空をあたかも無人境の如く飛んでいた、と書いた本も読んだ記憶があります。湾岸戦争に見られたような技術格差は、実は当初からあったのではないでしょうか。


 東西冷戦偽作説は、広瀬隆さんも『赤い盾』のなかで書いています。


 赤狩りのマッカーシーも、『共産中国はアメリカが作った』という本を書いています。


 共産主義自体も含む制度・政策上の支援。核・ミサイル・航空機・戦車などの軍事技術や、石油採掘技術といった技術の移転。金融・物資・芸術など経済・社会的な支援も沢山あったようです。


 アムステルダムの金融市場やクルップの鉄製大砲、日露戦争の軍艦や戦費、イスラエルのミサイル艇なども同様ですが……。


 放送大学でも、イギリスは欧州各国の、アメリカは世界各国のバランスをとっていたと講義していました。


 アメリカの政策研究所シンクタンク、ストラトフォーを率いるジョージ・フリードマンの著作群や、日本でも有名なサミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』など、国際政治学のベストセラーにも、そうした生々しい〝勢力均衡政策〟は当然のこととして書かれています。


 確かに、干拓でできた小国オランダはフランスやスペインを相手に善戦し、三十年戦争で荒廃していたプロシャ/ドイツは急激に発展して普仏・普墺戦争に勝利し、広大で環境の厳しいロシア/ソ連も急速に拡大してイスラム・黄色人種の文明圏を抑えつつ近代化しました。


 オランダ、ドイツ、ロシアは、いわばユーラシア大陸における文明化のくさびにように次々と発展し、強くなりすぎると英蘭戦争や両次大戦、東西冷戦で他の国々から抑えられますが、その先の国から攻められたり、圧力を受けたりすると助けてもらい、これで恨みっこなしね、というようにバランスがとられていたようにも見えます。


 またその反対側では、ロシア/ソ連を初めは日本、次に中国が抑え、中国をインド、インドをパキスタンが牽制した、といったこともあります。日本やイスラエル、南アフリカなど、大陸周辺の地理的要地にある他の国々についても、同様のことが言えるかもしれません。



4 陰謀論!?


 ただし、陰謀論において注意すべき点は、隠れているコイツらが悪だ! と決めつけてしまう部分かもしれません。


① 状況

【放っておいても国々はまとまる?】

どの国の歴史でもあったように、交通・通信や軍事技術の発達による制度・政策の巨大化は不可避だが、急にまとめると反動が起きてしまう。そのため誰が仕切っても、そうした流れに乗ったうえで、国際政治における各国のバランスをとりながら、あるいはドイツ関税同盟やEEC、WTOにおける関税撤廃のような経済分野から、徐々にまとめていくしかないのでは?

【若者が増えると戦争が起きる?】

人口爆発で若年人口が増大すると戦争が起き、減少すると収まるという、ユースバルジ仮説というのがあります。もちろん国益や、相手国も含む世界の利益への配慮が、いつどこでどう戦い、救い、あるいは関わらないかの決定に影響することはありうる。しかし、戦争の発生自体は社会学的な原因によるのなら、そこまで陰謀のせいにされるのは心外かも?


② 意図

【発展途上地域のための体制?】

特に発展途上地域は、集権的な右[開発独裁]か左[共産主義]か宗教[原理宗教]に任せて、建設的に競わせながら乱開発や格差拡大、難民流出を抑え、国民が誇りと責任を持って自国を近代化できるようにしたのでは?

【周囲に開発拠点も設けた?】

またその周辺地域では、比較的に居住環境が良く、従って社会環境も良い(逆に言えば、お人好しが弱点にもなりうるが)極東の黄色人種が住む島国や、欧州に移住した中東起源の人々が帰還して建てた国、アフリカであれば白人植民者が創った国を、やはり建設的に周辺諸国と競わせながら、文明化の拠点や補助者、後には協力者パートナーとして支援してきたのでは?


③ 主体

【憎まれ役も含めた下請け?】

ユダヤ陰謀論なら、彼等も日本人と同様に、憎まれ役も含めてキリスト教、あるいは西欧諸国の人々の下請け的な役割も引き受けていたのでは?

キリスト教徒にはできなかった金融業を営んだり、有色人種国家でありながら植民地を経営したりできた人々は、当時他にはいなかったかもしれません。

当初は干拓でできた小国や、三十年戦争で荒廃した貧しい国、広大な寒冷地の国であったのに、急速に発展してヨーロッパ・ユーラシア大陸を近代化していったオランダ・ドイツやロシアにも、そういうところがあったのでは?

【調整役にすぎない、あるいは自らも一枚岩ではない?】

アングロ・サクソン陰謀論や多国籍特権階層グローバルエリート陰謀論なら、他国からしても、地続きの隣国よりは、海を隔てた第三国や国境を越えて働く人達に仕切らせたほうが、利点があったのでは? そもそも移民や混血、内部の派閥などもあって、ひとくくりにはできないのでは?


④ 我々自身との関係

【釈迦のてのひら?】

過去に我々の利益になった活動や、利益を守ろうとした戦いでさえも、実は〝 釈迦しゃかてのひら〟の上だったのでは?

【本当はあなたのため、みんなのためにも……?】

それはただだまされたとか、利用されたとかいうのではなく、試され、評定されていたとか、お互いや世界のためにもなったとかいう部分もあったのでは?


……といったことも、検証すべきではないでしょうか。



5 あなたなら、どうしますか?


 今日では陰謀論なんて持ち出すまでもなく、62人が世界の富の半分を握っているとか報道されていますし、何もそれは経済だけに限らず、今に始まったことでもないとも思われます。そんな人達が何を考えているのかが、知りたいです。


 多くの人は、そんな力を持ったら、人類文明全体の持続的発展について考えると思います。なぜなら、特定の地域や分野ではなく、全体を上手く動かし続けることが、自分達の能力や責務であり、安心や利益にもつながるからです。


 しかし、文明が発展するほど、人間はダメになったり、ついていけなくなったりするところもあります。すでにある技術や組織の上にあぐらをかいて、様々な問題が起きるに任せたり、問題が悪化するとすぐに半端な徒党を組んで、仲間以外の人々を犠牲にすることで生き延びようとしたり、それでは解決にならないと教えてあげても、逆恨みの仕返しをしてきたり……。そんなとき、あなたならどうするでしょうか?


 情報活動インテリジェンスは、何もいわゆるスパイや通信傍受のような機密・秘密情報の収集だけでなく、実は公開情報の分析によるところも大きいと聞きます。もっとも……私のような市井の一オタクにも分かるようになったか、色々な情報を流して民度を測っているだけだったりして(笑)。


 今や世界は江戸時代に近づいて、諸国民は生産的な技術を開発・普及し、政策に対しては無駄な労力や争いを減らすチェック機能も果たしながら、地球統治グローバルガバナンスを支えてゆけるかが、問われているのかもしれません。 


 また今ならば、人工知能を中心に、人的資源や物的資源、経済・社会活動(資源の生産と分配の両立)といった文明要素の持続可能性を、(体内環境も含む)自然環境や社会環境に優しく、ムダ・ムラ・ムリや争い少なく確保できる技術や政策も、生まれつつあります。


 より少ない犠牲や費用コスト危険リスクでより以上の福利を得ようとするのは、知性に伴う欲求の無制限性を備えた人間のさがであり、原罪あるいはごうであるともいえましょう。


 それができずにいるというのは悲しく、希望や救いのない話ですし、昔ながらの悲劇を繰り返すだけでは、そのこと自体が劣っているとみなされて、さらなる不利益を甘受かんじゅさせられてしまうかもしれない。


 だとしたら日本には、今後は刀狩りや武家諸法度に触れぬよう、大阪の陣や赤穂事件のような騒ぎで被害を出さぬよう、出させるのは惜しいと思わせるような国になってほしいです。


 この国は進歩がなくなったと思われぬよう、親藩といえども無断築城で改易処分・取り潰しとか、私戦に及べば上がりが減るので両成敗とかされぬよう、より少ない代償でより多くの福利を生み出し、世界全体の文明発展に貢献できると示す戦略を期待したいです。


 それは日本人なら一番よく知っている、あるいは知っているべき、そして一番得意な社会状況ともいえるかもしれません。


 果たして以上のような考え方は、SF小説などの読み過ぎのせいでしょうか? 


 しかし……、

● ハーラン・エリスンの『殺戮すべき多くの世界』(非道な傭兵団長は、実は人工知能の助けで様々な影響を計算し、宇宙平和を導こうとしている人だった?)や、

● ラリイ・ニーヴンの『マンホールの蓋に塗られたチョコレートについて君には何がいえるか?』(人類〝釈迦の掌〟?)、

● 同じくニーヴンによる、〝パペッティア人のクジン人対策〟を描いた作品群(これも人類〝釈迦の掌〟?)、

● フレドリック・ブラウンの『スポンサーから一言』(何者かが運命の選択を人類自身に問わせた?)

などは、大変に考えさせるものがありました。


 もちろん、これ以外にも色々な考え方があるかもしれません。


 もしもあなたが世界を動かせるとしたら、どうしますか?


 そこから振り返って、動かされる方になったとしたら、どう対応しますか?

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