第30話 守るくらいなら、攻めろということかもしれない。

「で、もうひとつの目的だけど」

 リタは僕と目を合わせてきた。

「お別れの挨拶をしに来た」

「お別れ?」

「そう、お別れ。ちょっと、色々とやりすぎたみたいだから」

「それって、僕を生き返らせたり、今のように過去に戻したりしたってこと?」

「そう。本当なら、あんまりやっちゃいけないことなんだけど、それがまあ、バレたってところ」

 リタは言うなり、おもむろに天井の方を見つめる。

「とりあえず、まあ、色々と楽しかった。君にとっては、突然の話だけど」

「突然も何も、もう、リタと会えないってこと?」

「残念だけど。といっても、君が死んだら、あの世のどこかで見かけるかもしれないけど」

「そういう形での再会はちょっと……」

「その言い方だと、諦めてないんだね」

「何が?」

「明日、間戸宮明日香に殺されないで、何とか生きようとすること」

「そう、だね」

 僕は返事しつつも、どうすればいいか困っていたので、曖昧な口調になった。仮に間戸宮明日香から襲われることを避けたとしても、その後がわからない。つまりは、死の試練というものが続けてやってくる。僕としては、毎回何とかできる自信がなかった。ましてや、リタがいなくなっては、なおさらだ。

「やっぱり、僕は大人しく、死を受け入れるしかないのかな……」

「君は生きたいんだよね?」

「それはもちろん」

「なら、頑張らないと」

「頑張るっていっても、何をどう頑張れば……」

「そうだね。例えば、間戸宮明日香を殺すとか」

「殺す?」

「多分、だけど、君の死の試練は、彼女がいるからこそ、あり続けるかもしれないと思うけど」

「けど、殺すって言っても……」

「そうだね。この世では、そういうのは犯罪ってことになってるから」

「誰にもバレずに、間戸宮明日香を殺せばいいってこと?」

「物騒なことを考えるんだね」

「物騒も何も、リタが言ってきたことだし……」

「わたしはあくまで提案しただけだから」

 リタは言い終えると、おもむろに立ち上がる。

「それじゃあ、わたしはそろそろ」

「もう、いなくなるの?」

「うん。君は君で、まあ、色々と頑張って」

「最後だって言うのに、適当な別れの挨拶だね」

「何? もしかして、君はわたしのことが好きだったとか?」

「そ、そんなことないです!」

 僕が首を何回も横に振ると、リタは笑みを浮かべた。

「まあ、何とかうまくやって」

「何とかか……」

「まずは、明日、間戸宮明日香に殺されないように頑張らないとってところかな」

 リタの言葉に、僕は、「そうだね」と口にする。とはいえ、殺されないように逃げ切ったりしても、その後のことを考えないといけない。

「まあ、わたしなら、その場で殺すことを考えるけど」

「殺すって、間戸宮明日香を?」

「そう。それなら、ある意味一石二鳥だと思うけど」

「それはまあ、そうかもしれないけど」

「じゃあ、わたしはこれで」

 リタは言うなり、気づけば、姿が部屋からいなくなっていた。消える時はあまりにも急すぎる感じだ。

 取り残されたような気持ちを抱いた僕は、両腕を組んで、頭を巡らした。

「間戸宮明日香を殺す、か……。でも、まあ、どっちにしろ、殺されるかもしれないから、自分を守るっていう意味なら、致し方ないかもしれないし……」

 僕は悩み続けた。

 日が暮れ、電気のついてない部屋が薄暗くなっても、僕は明かりをつけなかった。じっと、明日香をどうしようか、考え続けていたからだ。

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