第29話 自信を持つのは大事なこと。
僕は家に着くなり、自分の部屋にあるベッドで仰向けになった。
「これから、どうすればいいんだろう……」
僕は額に手のひらを当て、天井のついてない照明に目を移す。
「間戸宮くんに対する気持ちは、わたしは誰にも負けてないって思っています」
麻耶香の言ったこと。僕に対する告白と受け取っていいのだろうか。結局、返事を求められもせずに、彼女は逃げるように去ってしまった。多分、恥ずかしさで耐えられなくなったのかもしれない。顔は真っ赤になっていたし。
僕は呼び止めようとしたけど、麻耶香はあっという間にいなくなってしまった。だから、ひとり取り残された形の僕は途方に暮れてしまった。
で、仕方なく帰ったものの、どこか中途半端な気持ちになっていた。
「とはいえ、明日の朝には間戸宮明日香に出会って、夜には襲われるはず……」
「困ってるみたいだね」
不意に声がしたので、起き上がって部屋の中を見回した。
リタは、部屋のドアに寄りかかり、両腕を組んで、目を合わせてきた。前に見た、黒を基調とした、シャツとジャケットにミニスカという格好でだ。家の中なのに、下はヒールを履いていることは突っ込んだ方がいいのだろうか。
「脱いだ方がいい?」
「いや、その、気にしなくてもいいです」
「そう」
リタはドアから背中を離すと、おもむろに僕の方へ歩み寄ってきた。
「とりあえず、彼女は君のことが好きみたいだね」
「みたいです」
「嬉しくないの?」
「嬉しいと言えば、嬉しいけど、その、明日には妹の間戸宮明日香に襲われるし……」
「そうだね。で、そうなると、今度はあの世行きかな」
「そ、そうなの?」
「うん。申し訳ないけど」
当然のごとく口にするリタに対して、僕は怯え始めた。死が訪れるということに。今までは、リタに助けられた形でやってきたけど、今度はそうじゃないようだった。
「そうか……、僕、死ぬんだ……」
「顔が真っ青」
「それは、そうだよ……。死の宣告をされたようなものだし……。がんで余命何ヶ月とか言われる人の気持ちが痛いほどわかるぐらい」
「君の場合は余命、二日だね」
「正確には一日とちょっと、だよね?」
「そうだね」
リタが声をこぼす。
「何とか、間戸宮明日香から襲われない方法とかって……」
「今のところはないね。君の妹、川之江美々は強運の持ち主だけど、今回ばかりは難しいかも」
「いや、だけど、前は逃げ切ろうとして、車に撥ねられたけど、今度は……」
「ダメだね。人の死っていうのは、ちゃんと行われるように何となくできてるから。よほどのことがない限り、避けることは難しい。前にも言ったけど、自然現象みたいなものだから」
「今度の確率は?」
「99%で君は死ぬ」
「だけど、100%じゃないんだね」
「君は降水確率99%っていう天気予報を見て、1%の確率で雨が降らないことを信じて、傘を持たずに外に出たりする?」
「しないです」
「それと同じこと」
「それじゃあ、僕は大人しく、死を受け入れろってこと?」
「残念だけど」
「もしかして、それを伝えるために?」
「そうだね。それとは別にもうひとつ目的があるけど」
リタがおもむろに言う。
僕はリタと正面を合わせた。
「もうひとつって、何?」
「そんなに知りたい?」
「知りたい。もしかしたら、期待しすぎだけど、僕の死を防ぐことができるヒントになるようなことかもしれないって思って」
「それは本当に期待しすぎ」
リタは呆れたように口にした。
「座っていい?」
「どうぞ」
僕はベッドから立ち上がると、近くにあった丸いクッションをリタの前に置いた。
リタはクッションの上に座り込むと、ため息をつく。僕も向かい合う形で床に腰を降ろした。
「わたしが死神だってことは忘れてないよね?」
「忘れるも何も、さっき、死神に死の宣告を受けたばかりだから」
「なら、安心した」
リタはなぜか、ホッとしたような表情になった。
「正直わたし、死神として、ちょっと自信をなくしかけていたんだよね」
「そうなの?」
「うん。だから、君に対して、死の宣告をしてみた。死神らしくして、違和感がないかどうか」
「それは、考えすぎだって」
「だから、君が死の恐怖を抱いてるような様子になっているのを見て、安心したってこと」
「人を怖がらせて安心するって……」
僕は苦笑いを浮かべた。
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