第25話 一度あることは二度ある。
「やめて!」
すかさず、美々が僕の体を抱え、身を挺して守ろうとする。
「素晴らしい兄妹愛ですね」
「やめて、明日香!」
「姉さん。わたしは姉さんのために彼を殺すんです。そして、これはわたしのためでもあるんです」
「明日香のため?」
麻耶香の質問に、明日香はナイフを僕の方へ向ける。だが、美々が間に入り、視界から辛うじて確かめられるぐらいだった。
「わたしは、姉さんのことが好きです」
「急に何言ってるの、明日香」
「姉さんにはわからないと思います。この気持ち、単なる姉さんを慕うような感情じゃない気がします」
「な、何を言ってんの? それって、お兄ちゃんと全然関係ないじゃない!」
「関係あります」
明日香は真面目そうな調子で言う。
一方で、僕の意識は薄らいできていた。おそらく、出血が多くて、朦朧としてきたのだろう。
美々は僕の異変に気付いたのか、顔を向けてきた。僕の両手を握り、目を潤ませる。
「お兄ちゃん!」
「明日香、何で、こんなことをしたの……」
「姉さんはたぶらかされていたんです。彼に」
「だから、わたしは」
明日香と麻耶香のやり取りが続く中、僕は段々と聴覚が鈍くなってきた。加えて、視界は少しずつ周りが朧気になってきている。これはもしや、再び、あの世とこの世の狭間に行くのだろうか。または、すぐにあの世へ直行してしまうのか。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「どうやら、わたしが手を下す必要もないみたいですね」
「明日香、何てこと、してくれたの!」
僕に寄り添う美々の後ろで、麻耶香が明日香に詰め寄る光景が垣間見える。正確には、だろうなという憶測な形だ。視界は薄暗く、広さもほとんどなくなってきていた。多分、まぶたが閉じかかっているのだろう。
「お兄ちゃん! もうすぐ救急車が来るから! すぐに助かるから!」
「うん、わかった。ありがとう、美々」
僕は礼を言うと同時に、視界は真っ暗になり、ついには何も聞こえなくなってしまった。
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