第24話 とっさの防御がそれなりの時間稼ぎにもなる。
「死んでください」
明日香は口にすると同時に、僕の方へ迫ってきた。
僕は寸前で、明日香が持つナイフの刃先をかわす。
明日香は僕のそばを横切った後、足を止め、振り返る。
「悪あがきしても、無駄です」
「今のは、様子見ってこと?」
「当たり前です。そうじゃなきゃ、さっきので殺していました」
明日香の声は淡々としていた。
ヤバい。このままだと、本当に殺される。
美々はいないし、他に助けを呼ぶ人も周りにいない。まさか、リタが現れるわけでもないし。
だとしたら、また逃げるか。
「逃げることは許さないです」
「まるで、僕の心を読んだみたいな言い方だね」
「あなたの考えは単純すぎます」
明日香はナイフの刃先を再び、僕の方へ向ける。
「それか、まさかとは思いますが、命乞いでもしますか?」
「する理由がないよね、それ。というより、しても、助からないよね」
「当たり前です」
明日香は間を置かずに答えた。
睨み合いが続く中、僕と明日香は一定の距離を取る。
「これで終わりです」
明日香は言葉をこぼすとともに、僕の方へ再び襲いかかる。
相手の攻撃はさっきよりも早かった。
僕はかわすことができず、とっさに片腕で防ごうとする。
「無駄です」
明日香は躊躇わず、僕の腕にナイフを突き刺してきた。
瞬間、出血し、同時に感じる痛みで、僕の動きは鈍くなった。
明日香は僕の腕からナイフを抜き、再び構える。
「今度こそ、これで終わりです」
明日香は一旦引き下がったものの、勢いよく僕の方へ突っ込んできた。
「うぐっ!」
僕の腹に鋭いものが刺さり、明日香が僕の懐まで入り込んできた。
思わず、口から血を吐いてしまう。
「男の人を殺すというのは、骨が折れますね」
「き、君は、そこまでして、僕のことを……」
僕は腹を抱えたまま、その場に倒れ込んでしまった。
目の前には、僕の返り血を浴びた明日香が見上げるように立っていた。後ろを外灯の光が照らし、彼女の冷たい眼差しがより鮮明に見えた。
と、どこからか足音が聞こえ、止まるなり、悲鳴に近い叫び声が聞こえてきた。
「川之江くん、何で……」
顔をやれば、近寄ってしゃがみ込むひとりの女子がいた。明日香とは目鼻立ちが似ているものの、他は違う。後ろをふんわりと浮かせ、前は睫毛にかからない程度に切り揃えている髪。胸は大きく、身長は変わらない。僕はすぐに、相手が誰だかわかった。
「間戸宮麻耶香さん……」
「姉さん、何で、ここに」
背後から、明日香の平坦な声が聞こえる。
「これは、明日香がやったの?」
明日香の姉、麻耶香は潤んだ瞳を堪えつつ、強い語気で尋ねる。
「姉さんは関係ない」
「関係あります!」
麻耶香は明らかに怒っているようだった。
「こんなことして、関係あるもないも、ない!」
「だって、彼は、姉さんをたぶらかしたから」
「わたしはたぶらかされてなんかいない!」
麻耶香は声を張り上げた。
僕が姉妹のやり取りを見ていると、別の人物が駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!」
「ああ、美々か……」
僕は返事すると同時に、傷に響いたのか、痛みが走り、腹を思わず押さえた。
「とりあえず、大人しくして。今、救急車呼んだから」
「そう、なんだ……」
「後、警察も」
耳を澄ませば、確かに、サイレンの音が近づいてきているようだった。
「姉さんは黙ってて」
視線をやれば、明日香がナイフを手に、僕と目を合わせてきていた。
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