第17話 強運のおかげで助かったのなら、命の恩人と思うしかない。
「何で、美々の名前が?」
「川之江美々は、強運の持ち主」
「強運って、運が強いってこと?」
「そう。だから、確率10%っていう低確率だった」
「それって、美々がいたから、僕は助かったとか……」
「彼女がいなければ、君は確率80%で死んでた」
「ウソでしょ……」
「本当」
リタの答えに、僕はどう反応すればいいか戸惑う。
「それって、僕ひとりの力だけでは生き残れないってことじゃ……」
「そう言うこともできる」
「だったら、今夜、僕が95%の確率で死ぬのって」
「その時、川之江美々が近くにいないってこと」
リタの淡々とした声。僕は俯いた。
「もしかして何だけど……」
「何?」
「前に間戸宮明日香に殺されそうになったのも」
「あれも彼女が現れて、何とか助かったってところかな。まさに奇跡だね」
「あれが奇跡っていうのか」
僕は明日香にナイフを首筋に当てられた時を思い出した。
もう、殺されるかもしれないと思った。だが、スマホから、美々の声が聞こえ、逃げ出す隙を作ってくれた。もし、美々が近くにいなければ。僕は考えてみるだけでも、ゾッとしてきた。
リタはおもむろに、僕の横に座り込んだ。途中、制服のスカートを手で押さえつつ。
「わたしは何もできない」
「直接、間戸宮明日香から守ることとか?」
「そういうこと」
「だけど、こういうことを教えるのって」
「わたしの世界ではまずいかも。でも、せっかく生き返らせたのに、すぐに死ぬのはつまらない」
「変な死神な気がするけど」
「それでもいい」
リタは膝小僧に顎を当てて、ぼんやりと先にある壁の方を見る。
「単に、死を司るだけだとつまらないから。あれだね、君みたいな高校生が、いつもの学校生活をつまらなく感じるのと同じようなことかも」
「なるほど」
「君はつまらなくない?」
「いや、僕は一時死にそうになったし、リタという死神と会ったり、記憶喪失というウソをつき続けることを条件に生き返ったりと、刺激的過ぎることが起き過ぎて、つまらないって感じるところがない」
「へえー」
「リタは、この世界で、僕と同じ高校生として、過ごしていくんでしょ? 今はどうなの?」
「まだ、ここでの生活は始まったばかりだから」
リタは立ち上がった。
「まあ、そこそこはおもしろいかも」
「そうなんだ」
「後、さっき話したみたいに、君が死の試練をどう乗り越えていくか、見ているのもおもしろいから」
「僕の人生をエンタメみたいに見てるんだ……」
「気を悪くしたのなら、謝るけど」
「別に謝らなくていいよ。だいたい、リタは死神なんだから」
「わたしが死神なこととは関係ないと思うけど」
「とりあえずは、今夜、間戸宮明日香が僕を殺しに来ることはわかったとして」
腰を上げた僕は、階段を降り始めた。
「どこに行くの?」
「食堂。まだ、昼食べてなかったから」
僕は自分の腹を手でさすった。
「リタはお腹空かないの?」
「人間としていると、お腹は空くけど」
「なら、一緒に食べに行く?」
「別にいいけど」
リタは返事すると、僕の後を追ってきた。
階段を降りつつ、僕は焦りが迸ってきていた。
そう、何もしなければ、僕は今日の夜で死んでしまう。ほぼ、確実に。
確率5%の奇跡を信じるよりも、生き残る確率を上げる方法を考えよう。
「ひとまずは、美々だな」
僕は言いつつ、食堂へ、リタとともに向かった。
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