第12話 悪夢とはまさにこのことだ。
夜中の病院は薄暗かった。
廊下は静まり返り、僕は周りを見ながら、一歩ずつ進む。
向かう先は自分の病室。けど、場所がわからない。僕は迷ってしまったようだ。
「にしても、何で、誰もいないんだろう。普通なら、夜勤の看護師とかいるはずなのに」
僕は口にしてみるも、疑問に答えてくる相手はいない。
廊下の途中にある角を、僕はゆっくりと曲がっていく。
と、視界にひとりの人影が映った。
目を凝らしてみるも、明かりがついてないので、わからない。もしかして、幽霊かと思い、背筋に寒気が走った。
だが、人影は幽霊じゃなかった。
「こんな夜中に歩いてるなんて、よほど寝られないんですね」
聞き慣れた声に、僕は誰だかわかった。
「間戸宮、明日香?」
「記憶喪失だなんて、ウソだったんですね」
距離が縮まった明日香は、上下紫っぽいジャージで、ついているフードは外していた。手にはナイフ。僕を襲ってきた時と同じ格好だった。
「やっぱり、僕を殺しに」
「わかっているなら、それなりの対策を取らなかったんですか?」
「いや、周りには記憶喪失だって言ってるから……」
「そこまでして、記憶喪失のフリをしたいんですね」
明日香は乾いた笑いをこぼすと、ナイフを正面に向けた。
「今度こそ、息の根を止めます」
「いや、その、もう、勘弁して」
「ダメです」
後ずさる僕に対して、明日香は少しずつ近づいてくる。
ヤバい。逃げないと殺される。
気づいた時には、僕は一目散に走り始めていた。
まただ。
僕は角を曲がり、進んできた廊下を戻り始める。といっても、自分の病室はどこかわからず、逃げ場所も思いつかない。階段があったので、降りてみるも、人気がないのは同じ。薄暗く、まるで、病院は僕しかいないみたいだ。
「何だ、これ。まるで、廃墟に迷い込んだみたいな……」
「往生際が悪いです」
振り返れば、いつ追いついてきたのか、明日香が奥に立っていた。ナイフを相変わらず、手にして。
「何で、君が?」
「わたしは、あなたに死んでほしいからです」
明日香の冷たい眼差しに、僕は再び背筋に寒気が走った。
今度こそ、確実に殺される。
僕は逃げようと、走った。
が、あろうことか、途中で転んでしまった。
「いてて……」
「ドジですね」
明日香の声は、もう、僕の背後にまで迫っていた。
立ち上がろうとするも、なぜか足をつってしまったらしく、できない。こんな時になぜと悔やむも、もう、手遅れかもしれない。
見れば、明日香が目の前にいた。
「情けない最後ですね。笑っちゃいます」
「そもそも、誤解だって! 僕は君のお姉さんをたぶらかしてなんかいないって」
「ウソです。わたしの目は誤魔化せません」
明日香は言うと、躊躇せずに、僕の体へナイフを刺しにいった。
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