第13話 死神はいつも近くにいるとは限らない。

「うわっ!」

 顔を上げた僕は、いつの間にかベッドの上にいた。

 しかも、病室ではなく、家にある自分の部屋だ。

 勉強机に本棚。近くにあるカーテンからは光が漏れていた。

「もしかして、夢?」

 僕は自分に問いかけてみた。

「卓お兄さん?」

 横からの声に、僕は顔を動かした。

 見れば、妹の美々が制服姿で不安げに視線を向けてきている。部屋の扉を開けたところで足を止めていた。

「ここって、家?」

「う、うん」

 美々がぎこちなくうなずく。

 どうやら、明日香に追いかけられていたのは、本当に夢だったらしい。

 僕はホッとするなり、ため息をついてしまった。

「卓お兄さん、うなされてた……」

「その、ごめん。心配かけたみたいで」

「ううん! 美々は卓お兄さんが退院してきてよかったって思ってるから」

「それなら、いいんだけど」

「とりあえず、朝ごはんができたから、ママが起こしてきてって」

「わかった。ありがとう」

 僕がお礼を言うと、美々は頬をうっすらと赤らめてから、部屋からゆっくりと立ち去っていった。記憶喪失の兄とはいえ、褒められることは嬉しいようだ。ただ、「卓お兄さん」という呼び名はやはり、慣れない。

「虚しい気持ちがするなあ……」

 僕はそばにリタが隠れてるんじゃないかと思いつつ、口にしてみた。

 だが、いくら待っても、リタは出てこなかった。

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