レィヘム王国
訃報
「スージェ、そこに隠れてるんでしょう?早く出てきなさい」
林檎の大樹を見上げ声を張り上げる少女、アルェティア。視線の先では彼女の元気過ぎる弟が太い枝に腰掛けこちらを見下ろしていた。
「ほら見つけた。勉強をしたからって林檎が逃げるわけでもないでしょう?」
「姉ちゃんは分かってないよ。僕は林檎が食べたいわけじゃないんだよ、勉強が嫌なんだ!」
姉らしく優しく諭そうと声を掛けるが弟は胸を張って勉強が嫌だと曰う。弟がそう考えるのかは勿論、同じく勉強をしているこちらも理解出来る。
元々は商人の家が今代で貴族に成り上がった家で、幼少を奔放に育てられた身としては机に齧り付いていなければならないのは凄まじく苦痛を感じる。
しかし彼が家庭教師や勉強の時間から逃げるのはこれで47回目であり、前回で両親から釘を刺されているのだ。今回の逃亡が露見すると仲良く勉強時間が倍になってしまう。
「いい加減に下に降りてきなさい!」
優しさを捨て睨みをきかせ怒声を放つ。ついでに幹をどんと叩いた。
「うわぁっ!お、落ちる!」
前者のおかげか後者のせいか、バランスを崩して後方へ体が傾いだ。そのまま重い音を立て根元に積まれた藁の上に軟着地。
「ひでぇよ姉ちゃん……」
「怪我はないでしょう。ほら行くわよ」
服に付いた藁を払いながら口をへの字に曲げてこちらを見る。
小言を言いながらも姉の手を借りて立ち上がった。
屋敷に戻ると何やら騒がしく、広間に人が集まっているようだった。
まさか逃亡の件がバレたのかと姉弟揃って顔を青くするがどうやら違うようで様子を見ると早馬で何かの知らせが来たらしい。
「何の知らせですか?」
近くにいたメイドを捕まえて何の知らせが来たのか問うと逡巡して一言「訃報です」と言ってそそくさと去っていった。
弟はメイドの要領を得ない答えに不満そうにしてから広間で使者と話していた両親の元へ駆け寄る。
「父様、何があったんですか?」
「……デイク博士が何者かに殺されたそうだ」
懇意にしていた人物の訃報であっただけに父もその表情に陰を落としていた。
「そんな!博士が……」
「隣国の森で見付かったらしい。額と胸を撃ち抜かれて」
「止めて下さいあなた。子供たちにそこまで話す必要は無いでしょう」
全て話してしまいそうだった父を母がやんわりと止め、姉弟に部屋へ戻るように言った。
言い方自体は優しいものだったが有無を言わさない雰囲気があり大人しく下がる。
「姉ちゃん、ディスカルさんが死んだって本当なのかな」
ポツリと漏らされた言葉は静かな部屋の空気に溶けた。
白い誓約と彼女とは 二沢双葉 @laypeya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。白い誓約と彼女とはの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます