白い誓約と彼女とは
二沢双葉
幕開け
雷鳴が轟き、吹雪が荒れ狂う。
暴風が大地の全てを剥がし去ろうと力を振るう極地であり中心。
気象という自然が支配する地に男の影が二人。
「イェトス……!やっとだ、やっと見つけたんだ。世界の中心を!!」
「ああ。見付けてしまったんだよ、ヴィスカル……」
歓喜の声を上げる男にもう一人は静かに言葉を返した。その音がヴィスカルと呼ばれた男の耳に届くことは無い。
轟々と吹く風にも掻き消されることのなかった炸裂音が一つ。白地のキャンバスに赤が飛び散った。
赤はすぐに白へと吹雪が白へと塗り替えるがこぼれ落ちる赤は染まらず広がり続ける。
「何故……わた、しを撃った……?」
血溜まりへ膝を着いた男は自分の胸に空いた穴を抑え、ここまで旅した友に悲しみの目を向けた。
向かい合う男の手には拳銃が握られていた。
彼の問いかけは答えに出会うことはない。
「俺も悲しいさ。でも仕方が無い」
諦めた様な悲哀感を漂わせて男は呟く。
慣れた手つきで弾倉を確認してもう一発の弾を込めた。
「……そうか、イェトス……君は」
二発目に撃たれた銃弾は確実に額を捉えていた。
「ディスカル、お前がここに辿り着かなければ俺は殺さなくて済んだのかもしれない。……もう遅いよな、我が友」
一人になった男は亡き友のそばに落ちていた本を拾い上げ、皮で丁寧に装丁された表紙を一撫でしてから開く。
どのページもまっさらで何かが書かれている様子がなかった。
男は最後のページを開いてペンで書き込んでゆく。
『彼は世界の極地へ到達した。だがそれは罪、人が踏み入れてはいけない領域。彼は神の裁きを受け生涯を終えた。』
締め括りを書き終えるとその本を抱え立ち上がる。
その背には先程はなかった大きな純白の翼があった。
今まで鳴っていた雷鳴が殊更轟音を響かせ、一陣の風が雪を巻き上げた。
大地と空の間を白く塗りつぶす風が収まった頃には男の亡骸だけが残る。
もう一人男がいたことを証明するのは羽一枚、それだけ。
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