13 セラ
「―――、ん?」
再び意識の電源が入った時、僕が見た光景は――
暗闇だった。
普段なら視覚を補助する
それどころか、僕は黒い箱の中ではなく――どうやら、どこか別の場所に腰を下ろしているみたい。
次の瞬間――
僕を襲ったのは、これまで僕が感じたことのない、ありとあらゆる入力と出力――感覚と感情だった。
痛い。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
怖い。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
痛み、
苦しみ、
吐き気、
不快感――
なんだ、これは?
なんだ、これは?
なんだ、これは?
なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは? なんだ、これは?
「――なんだ? なんだ? なんだよ、これ? どうなってるんだよ? 僕は、どうしたんだ?」
僕は、自分が壊れてしまったのかと思った。
だって、こんなことはありえない。
僕たち『ヒューマノイド・ドローン』の
なのに、痛い。
なのに、怖い。
なのに、苦しい。
なのに、興奮している。
なのに、混乱している。
なのに、恐怖している。
その時、僕は初めて自分が恐怖していることに――いや、恐怖という感情を知ったのだ。
そして、初めて本当の痛みを知った。
まるで錆びついた機械のように、体が鈍く重い。
負傷し、
損傷し、
消耗し、
破損している。
僕は、壊れている。
僕の脳裏に破棄という二文字が過って、僕はなおさら恐怖で泣きそうになった。
「僕は、いったいどうなってるんだ? ここは、どこなんだ? 痛い。痛い。痛い。痛いよ。怖い。怖い。怖い。怖いよ。僕は壊れちゃったのか? みんなは、セラは――どこにいるんだろう?」
僕の意識は、誰とも繋がっていなかった。
それどころか、チャペルのローカルエリアネットワークにも接続されていない。
みんなの意識がない。
みんなの声が聞こえない。
セラの意識がない。
セラの声が聞こえない。
まるで、子供たちにつがなる糸電話の線を全て切られてしまったみたい。
僕は、ひとりぼっちだった。
それは、僕が初めて経験する孤独。
圧倒的な孤独が、暗闇と共に僕を包みこんでいる。
僕は、頭の中でみんなに呼びかけた。
セラの名前を何度も叫んだ。
感情のタグを辺り一面にまき散らした。
でも、何の反応もない。
当たり前だ。
僕は今ネットワークに繋がっておらず、完全な孤立状態――スタンドアローン。
それは、完璧な孤独。
真っ暗な部屋に一人でいるみたい。
「セラ、みんな、セラ、みんな、セラ、みんな、セラ、セラ、セラ――ノクト、ルクス、ラズリ、ニルス、シア、みんな、どこにいるんだよ? お願いだから、声を聞かせてよ」
僕は混乱と恐怖のあまり、みんなの名前を呼んだ。
だけど、誰一人として僕に声をかけてはくれなかった。
感情タグだって返ってこない。
僕は、ひとりぼっち。
だけど、
「帰らなきゃ、帰らなきゃ、帰らなきゃ――僕は、『第六チャペル』に帰るんだ。セラと一緒に」
僕は恐怖で泣きそうになりながらも、全ての機能が停止して痛みだけを感じる
「なっ、なんなんだここは?」
そこは、僕が今まで見たこともない――
想像を絶するような光景だった。
僕は、何かの地下施設のような場所にいた。高く広い空間に巨大なコンクリートの柱がいくつも並んでいて、その柱の一つに背を預けている。何かが、僕の腰元に寄りかかっているけれど、それは――今は、どうでもいいことだった。
目の前の光景は、凄惨という言葉を通り越して理解不能だった。
僕の知らないセカイ。
聞いたことも、見たこともないセカイ。
僕の目の前には、大量の――
そして、肉の塊がそこら中に散らばって、どす黒い血でコンクリートの地面を染め上げている。あまりにも
散らばっている
僕たち、『ヒューマイノド・ドローン』。
僕たち、『第六チャペル』の子供たち。
みんな黒の『タクティカル・スーツ』を着て、武器や弾薬を装備している。そこら中に、僕たちが携帯していたと思われるライフルが落ちている。考えるまでもなく、ここが戦場だということが分った。
だけど、誰が誰だかはまるで分らなかった。
ぐちゃぐちゃで、
ぼろぼろで、
どろどろの肉の塊が、
欠片が、
そこら中に転がったり、
積み重なったり、
散らばっているだけ。
「――なんなんだよ?」
視覚を取り戻して状況を確認したことで、僕の意識が少しだけ落ち着いたのか、脳内物質の分泌も徐々に治まった。そのせいで今度は嗅覚を取り戻し、たとえようもない異臭を感じることになった。
僕は吐き気を抑え込んで、あたりを見回し続ける。
「いったい、どうして? 戦場での僕たちの
僕はそこまで考えて、重大なことに気がついた。
「セラ?」
僕は、彼女の名前を震える声で呼んだ。
頭の中で、意識で呼びかけるのではなく――
喉を震わせ、声に出して彼女の名前を呼んだ。
「セラ?」
人類ことが大好きで、
人類になりたがっていた彼女がそうしたように、
僕は、
声に出して言葉でセラの名前を呼んだんだ。
「セラ?」
彼女は、
いつだって僕の特別な女の子で、
いっだって僕のそばにいて、
僕に名前をくれて、
いつだって僕の隣にいてくれたんだ。
僕が生まれた、
その瞬間から。
「――――、?」
僕は自分の
セラは、いつだって僕のそばにいてくれた。
きっと、今だって――
僕は、僕の
その
僕の腰に手をまわして、
僕を守るように寄り添っていた。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ」
僕は、震える声で何度もそう言った。
「違う、違う、違い、違う、違う、違う、違い、違う、違う、違う、違い、違う、」
僕は首を横に振りながら、僕を守るように寄り添っている体に手を伸ばした。
やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。
だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。だめだ。
僕の頭の中で、もう一人の僕がなんどもなんども警鐘を鳴らし、大声で叫び声を上げている。
それでも、僕は手を伸ばして、
その動かなくなった
そして、その顔をゆっくりと覗き込む。
頭も、三分の一くらい欠けていた。
まるで、砂でつくったお城が崩れたみたいに。
それでも、僕が見間違えるはずはなかった。
その顔を、
大好きな彼女の顔を、
僕が見間違えるなんてことは、
絶対にないんだ。
「――セラ、そんな、嘘だよ?」
その壊れた
僕の大好きな女子だった。
僕に名前をくれた、
僕が名前をあげた、
二人で『第六チャペル』に帰ってこようっておまじないを交わし合った、
これから先も、
二人で人類のために働こうと約束し合った、
僕の大好きな女の子だったんだ。
「――嘘だっ、こんなの嘘だよ。だって、約束したじゃないか? おまじないがあるはずじゃないか? 心から信じれば、それは絶対にかなうって言ったじゃないか? こんなの嘘だよ。セラ、セラ、セラ――」
僕は、泣きながら大声でセラの名前を呼んだ。
僕の胸に彼女を引き入れようと
彼女の首から下の
崩れてしまった。
「セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。セラ。」
僕は頭だけになったセラの
もう二度と離さないと。
ずっとそばにいると。
僕は、獣のように叫びながら泣いた。
この感情に、なんて名前を付けたらいいのか分からない。
何もかもが分らない。
ただ痛くて、
怖くて、
悲しい。
僕は、ただ獣のように泣いた。
獣のように。
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